爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-
「岬の灯台殺人事件」 ~ 四つ子の事件簿第6話 ~
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Ⅲ章 - 3
俺が会おうとしている元国連事務次官ウィリアム・N・ローバン。そう、向かい側の岬にある屋敷の住人だ。
「華々しい経歴ってわけじゃないんだ。地味にキャリアを重ねて地味な引退生活に入った。――ね、こういうのがまさに岬好みだって思わない?」
「だとしても」
三杉は慎重だった。岬に対してはもちろん、俺の言葉にも簡単には乗ってこない。
「アクシデントが重なりすぎるね。偶然なのか意図的なのか…」
「おいおい、やめてくれよ」
俺は抗議した。それをまさに身をもって実感しつつあっただけに。
「もうこれ以上疑いをかけられるのはごめんだって。死体が増えるのもね」
「そうだね」
うなづきながら三杉は少し考えるように視線を宙に向けた。
「ここにいる人たちだけど、君とは初対面なんだね?」
「うん、もちろん。中には俺が着く前からいなくなってた人もいるし」
「不思議だね。なのに彼らは君にずいぶん深く関わってしまっている。なぜだろう」
「は?」
いきなりな指摘に俺はぽかんとした。
「しかも一人一人が何かを隠している」
「おい、淳…」
俺が問い返そうとしたその時、ドアをノックする音がした。顔を覗かせたのはエディ・マーカスだった。
「よし、ちゃんといるな」
「何かあったんですか?」
自分は容疑者ではない三杉が部外者として尋ねた。エディはこいつには丁寧な対応をする。
「いや、さっき無線で連絡が入って。――近くを航行中の定期船からなんですが、灯台の光がいつもと違う、何か異状がある、っていう問い合わせなんです。故障かトラブルか、とにかく上に行って確認するところです」
それで念のためにここに寄って確かめたわけね、俺が何か怪しい真似をしていないか。この上灯台の故障まで責任を問われちゃたまらないってば。
「灯台の維持管理はどこも自動化されていると聞いていますが」
「その通りです。基本的には地域ごとの管理センターで統括して管理業務を行なっていますから。僕はあくまでバードサンクチュアリの責任者であってそちらの専門家じゃないんです。でもまあ間借りしている以上、緊急時には協力しないといけませんから」
「こういうロケーションですから保守点検も不可欠でしょうね」
二人で小難しい話に熱中しているけど、問題はそこじゃないはず。
「あ、いけない。コンラッドを待たせているんだった。下で無線についててくれてるので」
エディは我に返ってドアに手をかけた。と、いきなりその外で大きな物音が響く。向かいでドアが激しく叩きつけられる音、そしてバタバタと暴れるような足音。
「や、やめて――離して…」
苦しげにかすれた声はジェニファーだ! 俺たちは廊下に飛び出す。
廊下の突き当たり、あの非常階段への扉が開いて激しい風雨がその外でうなっていた。そこにちょうど灯台の光が通過して、逆光の中でもみ合う2つの人影が浮かび上がる。
「ジェニファー!」
背後から羽交い絞めにされた格好でもがいていたジェニファーが、いきなり放り出された。襲った犯人は身を翻して外に飛び出す。俺たちもそこに突進し、扉を手で押さえた。エディがそれをすり抜け、俺もそれに続こうとした。――が、できなかった。
そう、またも俺を阻んだもの。それは暴風雨にさらされる非常階段のその高さだった。一歩出たその場所でいきなり強風にあおられ、あわてて手すりにしがみつく。その危なっかしい体勢で、俺は必死に目を凝らした。
階段を駆け下りていくエディ。その先には闇に小さくなっていく後ろ姿が階段の下にかろうじて見えた。再び巡ってきた灯台の光が、そいつの防水ジャケット姿を一瞬だけ照らしたが、顔のほうはとうとう見えずじまいだった。
まただ、また逃しちまった。
がっくりしつつ扉の内側に戻ると、ジェニファーは廊下のそこにへたり込んで、三杉に介抱されているところだった。
「首を絞めかけられたようだ。危なかったね」
ゆっくり深呼吸をさせながら声をかけ、三杉はジェニファーをまず落ち着かせようとしている。まだ放心状態という様子ながら、ジェニファーの顔色も戻ってきたようだ。
「華々しい経歴ってわけじゃないんだ。地味にキャリアを重ねて地味な引退生活に入った。――ね、こういうのがまさに岬好みだって思わない?」
「だとしても」
三杉は慎重だった。岬に対してはもちろん、俺の言葉にも簡単には乗ってこない。
「アクシデントが重なりすぎるね。偶然なのか意図的なのか…」
「おいおい、やめてくれよ」
俺は抗議した。それをまさに身をもって実感しつつあっただけに。
「もうこれ以上疑いをかけられるのはごめんだって。死体が増えるのもね」
「そうだね」
うなづきながら三杉は少し考えるように視線を宙に向けた。
「ここにいる人たちだけど、君とは初対面なんだね?」
「うん、もちろん。中には俺が着く前からいなくなってた人もいるし」
「不思議だね。なのに彼らは君にずいぶん深く関わってしまっている。なぜだろう」
「は?」
いきなりな指摘に俺はぽかんとした。
「しかも一人一人が何かを隠している」
「おい、淳…」
俺が問い返そうとしたその時、ドアをノックする音がした。顔を覗かせたのはエディ・マーカスだった。
「よし、ちゃんといるな」
「何かあったんですか?」
自分は容疑者ではない三杉が部外者として尋ねた。エディはこいつには丁寧な対応をする。
「いや、さっき無線で連絡が入って。――近くを航行中の定期船からなんですが、灯台の光がいつもと違う、何か異状がある、っていう問い合わせなんです。故障かトラブルか、とにかく上に行って確認するところです」
それで念のためにここに寄って確かめたわけね、俺が何か怪しい真似をしていないか。この上灯台の故障まで責任を問われちゃたまらないってば。
「灯台の維持管理はどこも自動化されていると聞いていますが」
「その通りです。基本的には地域ごとの管理センターで統括して管理業務を行なっていますから。僕はあくまでバードサンクチュアリの責任者であってそちらの専門家じゃないんです。でもまあ間借りしている以上、緊急時には協力しないといけませんから」
「こういうロケーションですから保守点検も不可欠でしょうね」
二人で小難しい話に熱中しているけど、問題はそこじゃないはず。
「あ、いけない。コンラッドを待たせているんだった。下で無線についててくれてるので」
エディは我に返ってドアに手をかけた。と、いきなりその外で大きな物音が響く。向かいでドアが激しく叩きつけられる音、そしてバタバタと暴れるような足音。
「や、やめて――離して…」
苦しげにかすれた声はジェニファーだ! 俺たちは廊下に飛び出す。
廊下の突き当たり、あの非常階段への扉が開いて激しい風雨がその外でうなっていた。そこにちょうど灯台の光が通過して、逆光の中でもみ合う2つの人影が浮かび上がる。
「ジェニファー!」
背後から羽交い絞めにされた格好でもがいていたジェニファーが、いきなり放り出された。襲った犯人は身を翻して外に飛び出す。俺たちもそこに突進し、扉を手で押さえた。エディがそれをすり抜け、俺もそれに続こうとした。――が、できなかった。
そう、またも俺を阻んだもの。それは暴風雨にさらされる非常階段のその高さだった。一歩出たその場所でいきなり強風にあおられ、あわてて手すりにしがみつく。その危なっかしい体勢で、俺は必死に目を凝らした。
階段を駆け下りていくエディ。その先には闇に小さくなっていく後ろ姿が階段の下にかろうじて見えた。再び巡ってきた灯台の光が、そいつの防水ジャケット姿を一瞬だけ照らしたが、顔のほうはとうとう見えずじまいだった。
まただ、また逃しちまった。
がっくりしつつ扉の内側に戻ると、ジェニファーは廊下のそこにへたり込んで、三杉に介抱されているところだった。
「首を絞めかけられたようだ。危なかったね」
ゆっくり深呼吸をさせながら声をかけ、三杉はジェニファーをまず落ち着かせようとしている。まだ放心状態という様子ながら、ジェニファーの顔色も戻ってきたようだ。
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・ もくじ ・
■ 登場人物
■ まえがき
第1章 サイレン
1 2 3
第2章 登頂
1 2 3 4
第3章 ゴールに続く道
1 2 3 4
第4章 鳥たちは還らない
1 2 3 4 5
第5章 インタビュー
1 2 3(終)
■ まえがき
第1章 サイレン
1 2 3
第2章 登頂
1 2 3 4
第3章 ゴールに続く道
1 2 3 4
第4章 鳥たちは還らない
1 2 3 4 5
第5章 インタビュー
1 2 3(終)
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はじめに
四つ子の事件簿シリーズです。
時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。
最新コメント
おわりに
ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。
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