爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-
「岬の灯台殺人事件」 ~ 四つ子の事件簿第6話 ~
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Ⅱ章 - 4
部屋の真ん中にバッグを置いてエディが慎重に覗き込む。
「まずはカメラ。その付属品。――と、これはノートパソコンか。ほう」
エディは俺をじっと見上げてからまたチェックに戻った。
「手帳が1冊。残りは衣類と洗面用具、財布、パスポート」
「まあ妥当に旅行者だな。しかし――」
コンラッドがつぶやく。エディも立ち上がり、3人の視線がまとめて俺に集まった。
「カメラはプロ仕様だな。いったいあんたの職業は何なんだ、そもそも。サッカープレイヤーとは思えん装備だが」
「そっちはもう引退したさ。俺はジャーナリストだよ。取材に来たんだ、ここには」
俺の返答に、コンラッドとジェニファーはぽかんとした。そう、さっきひとしきりワールドカップの話をしていただけに。
「取材されるほうじゃなくて、する側になったってのか?」
「現役の頃から掛け持ちでやってたんだけどね」
俺は自分のパソコンに目をやった。
「ウィンスロー教授にはその取材の仲立ちをしてもらうことになってたんだ。で、そのために教授を俺に紹介したのがさっきの話題の11番」
「……」
一番疑わしそうに俺を見ていたは管理人のエディだった。
「ウィンスローからは確かに知人が何日か滞在するからと宿泊の準備を頼まれてたが、それ以上の詳しいことは聞いていないし。あんたのその説明、信じていいのかどうか」
「そのために荷物を持って来てもらったんだ。このパソコンでしかるべき先に接続すれば、俺の身元保証もできるから」
「そいつはどうだか」
再びコンラッドがからんできた。
「本物の代表選手だろうと、本物の記者だろうと、それが証明できたから犯人じゃないなんてことにはならないんだぞ」
「とにかくやってみればいいんじゃない? このままただ疑っているよりは進展がありそうだわ」
そうそう、若い子は前向きだ。ジェニファーのその言葉に、エディとコンラッドもしぶしぶ同意することになった。
「ネット接続なら灯台のパソコンでもできるんだ。こいつじゃないと連絡できないってのはどこなんだ?」
「あいつとの接触は自前の通信ソフトじゃないと無理なんだよね」
エディにそう答えながら俺はネットをつないでパリのとある連絡先にアクセスした。
「今は留守なんだけどね、ここは。本人はヒースローで足止め食ってるはずだから。でもこれを使えば世界のどこにいようとあいつの所に転送してくれるんだ」
「それがあなたの兄弟って人?」
「正しくは義理の兄弟。俺の妹の連れ合いだから」
「え、でも、そっくりだって話でしょ…」
ジェニファーはそこに突っ込んできた。
「今はそこは追及しないでくれる? トラウマなんだ」
どういうトラウマかを説明していたら夜が明けてしまうだろうが。
「――よし、繋がったぞ」
ページが切り替わって、『会話』ウィンドウに文字列が現われた。
『やあ、反町』
驚くこともなく普通にあいさつを寄越してくる。
『そろそろ何か言ってくる頃かなって思ってたよ。でも遅刻の苦情は聞かないからね。文句は英国交通省に言ってくれる?』
『足止め食ってるのは俺も同じだって。身分証明しないと殺人犯にされそうなんだから。なんとかしてくれよ』
画面に表示されていく俺たちの「会話」を、3人は頭を寄せて覗き込む。ちなみに余計な疑惑を招かないよう、このやりとりは英語で表示されていた。自動翻訳だけど。
『へー、殺人犯。いくら君でもそこまで物好きじゃないよね。いったい何やってんの』
『ウィンスロー教授が襲われてケガしたんだ。俺の目の前で。犯人を見逃した上に、俺が疑われてさ』
「…おい」
エディが口を開いた。
「世間話はいいから、要件を早く伝えたらどうだ」
「そうでした」
いや、もちろん忘れてたわけじゃない。エディたちには世間話に見えるかもしれないけれど、これが岬相手のいつもの儀式みたいなものなんだ。なにしろ手の内を簡単に明かす奴じゃないだけに。あ、俺も同じか。
『俺の身元証明をおまえのほうから転送してくれる? 第三者からの公的な証明が必要なんだってさ』
『わかった』
1分ほどの時間がひどく長く感じられたが、やがて添付ファイルがまとめて届いた。エディと場所を交替してその内容を確認してもらう。
現住所である米国ヴァージニア州の居住者登録から最近のシゴトの契約書まで、まあ几帳面に揃えてくれたというか、この短時間でここまで用意できるほど常々俺をしっかりとマークしていることを思い知らせてくれるというか、とにかくちょっと寒い思いをする。
「なるほどな。確かにウィンスローの客だってことはわかったよ。しかしその先はまた別の問題だからな」
自分の目で確認を取って、エディは立ち上がった。コンラッドが身を乗り出す。
「なあ、こいつと直接話はできないのか、電話とか」
まさかワールドカップの恨み言を自分で言いたいなんてことはないだろうな。
『残念だけど、近くになくて』
それに対する岬の返答はこうだった。
『だから身の潔白を立てるのは自分でどうぞ。ボクが行くまでにね』
「こういう奴なんだ、ほんとにさ」
俺の悲しい境遇は結局変わらないままとなった。
【 Ⅱ章 おわり 】
「まずはカメラ。その付属品。――と、これはノートパソコンか。ほう」
エディは俺をじっと見上げてからまたチェックに戻った。
「手帳が1冊。残りは衣類と洗面用具、財布、パスポート」
「まあ妥当に旅行者だな。しかし――」
コンラッドがつぶやく。エディも立ち上がり、3人の視線がまとめて俺に集まった。
「カメラはプロ仕様だな。いったいあんたの職業は何なんだ、そもそも。サッカープレイヤーとは思えん装備だが」
「そっちはもう引退したさ。俺はジャーナリストだよ。取材に来たんだ、ここには」
俺の返答に、コンラッドとジェニファーはぽかんとした。そう、さっきひとしきりワールドカップの話をしていただけに。
「取材されるほうじゃなくて、する側になったってのか?」
「現役の頃から掛け持ちでやってたんだけどね」
俺は自分のパソコンに目をやった。
「ウィンスロー教授にはその取材の仲立ちをしてもらうことになってたんだ。で、そのために教授を俺に紹介したのがさっきの話題の11番」
「……」
一番疑わしそうに俺を見ていたは管理人のエディだった。
「ウィンスローからは確かに知人が何日か滞在するからと宿泊の準備を頼まれてたが、それ以上の詳しいことは聞いていないし。あんたのその説明、信じていいのかどうか」
「そのために荷物を持って来てもらったんだ。このパソコンでしかるべき先に接続すれば、俺の身元保証もできるから」
「そいつはどうだか」
再びコンラッドがからんできた。
「本物の代表選手だろうと、本物の記者だろうと、それが証明できたから犯人じゃないなんてことにはならないんだぞ」
「とにかくやってみればいいんじゃない? このままただ疑っているよりは進展がありそうだわ」
そうそう、若い子は前向きだ。ジェニファーのその言葉に、エディとコンラッドもしぶしぶ同意することになった。
「ネット接続なら灯台のパソコンでもできるんだ。こいつじゃないと連絡できないってのはどこなんだ?」
「あいつとの接触は自前の通信ソフトじゃないと無理なんだよね」
エディにそう答えながら俺はネットをつないでパリのとある連絡先にアクセスした。
「今は留守なんだけどね、ここは。本人はヒースローで足止め食ってるはずだから。でもこれを使えば世界のどこにいようとあいつの所に転送してくれるんだ」
「それがあなたの兄弟って人?」
「正しくは義理の兄弟。俺の妹の連れ合いだから」
「え、でも、そっくりだって話でしょ…」
ジェニファーはそこに突っ込んできた。
「今はそこは追及しないでくれる? トラウマなんだ」
どういうトラウマかを説明していたら夜が明けてしまうだろうが。
「――よし、繋がったぞ」
ページが切り替わって、『会話』ウィンドウに文字列が現われた。
『やあ、反町』
驚くこともなく普通にあいさつを寄越してくる。
『そろそろ何か言ってくる頃かなって思ってたよ。でも遅刻の苦情は聞かないからね。文句は英国交通省に言ってくれる?』
『足止め食ってるのは俺も同じだって。身分証明しないと殺人犯にされそうなんだから。なんとかしてくれよ』
画面に表示されていく俺たちの「会話」を、3人は頭を寄せて覗き込む。ちなみに余計な疑惑を招かないよう、このやりとりは英語で表示されていた。自動翻訳だけど。
『へー、殺人犯。いくら君でもそこまで物好きじゃないよね。いったい何やってんの』
『ウィンスロー教授が襲われてケガしたんだ。俺の目の前で。犯人を見逃した上に、俺が疑われてさ』
「…おい」
エディが口を開いた。
「世間話はいいから、要件を早く伝えたらどうだ」
「そうでした」
いや、もちろん忘れてたわけじゃない。エディたちには世間話に見えるかもしれないけれど、これが岬相手のいつもの儀式みたいなものなんだ。なにしろ手の内を簡単に明かす奴じゃないだけに。あ、俺も同じか。
『俺の身元証明をおまえのほうから転送してくれる? 第三者からの公的な証明が必要なんだってさ』
『わかった』
1分ほどの時間がひどく長く感じられたが、やがて添付ファイルがまとめて届いた。エディと場所を交替してその内容を確認してもらう。
現住所である米国ヴァージニア州の居住者登録から最近のシゴトの契約書まで、まあ几帳面に揃えてくれたというか、この短時間でここまで用意できるほど常々俺をしっかりとマークしていることを思い知らせてくれるというか、とにかくちょっと寒い思いをする。
「なるほどな。確かにウィンスローの客だってことはわかったよ。しかしその先はまた別の問題だからな」
自分の目で確認を取って、エディは立ち上がった。コンラッドが身を乗り出す。
「なあ、こいつと直接話はできないのか、電話とか」
まさかワールドカップの恨み言を自分で言いたいなんてことはないだろうな。
『残念だけど、近くになくて』
それに対する岬の返答はこうだった。
『だから身の潔白を立てるのは自分でどうぞ。ボクが行くまでにね』
「こういう奴なんだ、ほんとにさ」
俺の悲しい境遇は結局変わらないままとなった。
【 Ⅱ章 おわり 】
PR
・ もくじ ・
■ 登場人物
■ まえがき
第1章 サイレン
1 2 3
第2章 登頂
1 2 3 4
第3章 ゴールに続く道
1 2 3 4
第4章 鳥たちは還らない
1 2 3 4 5
第5章 インタビュー
1 2 3(終)
■ まえがき
第1章 サイレン
1 2 3
第2章 登頂
1 2 3 4
第3章 ゴールに続く道
1 2 3 4
第4章 鳥たちは還らない
1 2 3 4 5
第5章 インタビュー
1 2 3(終)
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はじめに
四つ子の事件簿シリーズです。
時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。
最新コメント
おわりに
ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。
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