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爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-

「岬の灯台殺人事件」          ~ 四つ子の事件簿第6話 ~

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Ⅲ章 - 2

「あのな、淳」
 ウィンスローの安静のため、向かいの俺の部屋に移動して全員に新しいお茶が入れられた。
「誰と間違えられてるか、おまえわかってたんだろ?」
「そんなことはないよ」
 三杉はあっさりと否定した。そこから先は同席者のために会話は英語に切り替える。
「僕が立ち寄ったホテルにたまたま警察の人が来て、誰か医療関係者はいないかって青くなっていたから、何か役に立てればと思って名乗り出ただけだよ。まさか君がここにいるなんて僕が知るわけがない」
「けど、こんな所に旅行って…」
「学会に出席するための出張だよ。帰国前に少し息抜きをしようかと思ってこちらに足を伸ばしたんだ」
 少し引き気味に俺たちの会話を見守っていた3人だったが、そこでジェニファーが口を挟んだ。
「じゃあ、あなたが噂の…11番さん?」
 俺はぎくりとする。
 それは――その言葉は禁句なんだ、ジェニファー!
「どういう噂をお聞きになっていたかはわかりませんが」
 三杉の目に、一瞬だけキラリと危険な光が閃いた。が、口調はあくまで穏やかなままジェニファーに向き直る。
「僕は前回のワールドカップではごく穏便な振舞いしかしていなかったはずですよ。『彼』と間違えられるような真似は一切ね」
「イングランド戦にたまたま出てなかっただけじゃん」
 話題になっていたのがイングランド限定だと踏んでの発言に違いない。
 しかしコンラッドの感動はそんな言葉では揺るがなかった。俺たちの会話に表情が見る見る輝きだしたようだ。
「参ったな。このドクターも代表選手だったのか。兄弟が3人揃って!」
 三杉は紅茶のカップを置き、一同を見渡した。
「あの大会の後僕は現役を引退しましたから、もう代表選手じゃありませんよ。本業に戻っておとなしく暮らしています」
「おとなしくぅ~?」
 俺はこっそり日本語でつぶやいた。もちろん三杉は聞こえないふりをしている。
「それより、他にも治療が必要な人がいらっしゃるのでは? 警察からはそう聞いてきたんですが」
「ああ、それそれ」
 俺が急いで説明する。
「この下で転落したらしい死体が見つかって、でも引き上げる前に波にさらわれてしまったんだ。ここの野鳥センターの職員の人なんだけど」
 三杉は眉を寄せ、そしてエディに質問を向けた。
「そういえばさっきのボートはどうなりました? エンジンはかかったままでしたね」
「ああ、ざっと調べただけだが、妙なことにギアもそのままだった。とすると、ダネルは海に落ちたのかもしれん」
「ダネル?」
 俺は思わず口をはさんだ。その名前にどこかで覚えがある。確か、ウィンスローが話してくれた…。
「あのボートの持ち主だ。この入り江の反対側の屋敷に通いで働いてる。いつもならこっちには来ないはずなんだ。湾の向こう側の漁港から往復しているから。この嵐を避けるためにコースを変えたのか…」
「落ちたならどこかに泳ぎ着いてるといいが」
 コンラッドがつぶやいて、エディも心得たように立ち上がった。もう一度探しておきたいのだろう。
「あのっ、俺も――」
 俺は急いで腰を浮かせたが、エディは厳しい顔で首を振った。
「ミスター・ソリマチ、あんたはここでドクターと一緒にいてもらうからな。自重してたほうがいいぞ、警察が来るまでは」
「えー、俺、まだ容疑者のままなのー?」
 俺だってじっとなんてしていられない。一人が灯台の下に転落し、一人が頭を殴られ、客の一人が行方不明になり、さらに一人がボートから落ちただなんてただ事じゃない。自分の目で状況を確かめたい。自重なんてしている場合じゃないよ。
「容疑者って、何をしでかしたんだ、一樹」
 男二人が出て行って、ジェニファーも付き添いのために向かいの部屋に戻ってしまうと、三杉は興味津々といった顔で俺に向き直った。俺の不幸がよほど好奇心を刺激したらしい。
「だからー、濡れ衣だよ。さっきのウィンスロー教授のケガ、俺がやったんだって言って。確かにその時一緒にいたのは俺なんだけどさ」
「ふうん」
 彼が襲われた時の状況を説明する。三杉は考え込んだ。
「君が襲ったとしたら、動機は?」
「あるわけないだろ。俺は今日来たばかりで教授とも初対面なんだ。取材の協力者をいきなり襲ったりするもんか」
「なるほど、取材ね」
 うなづいて、三杉は再び紅茶を口にした。
「君が会見を申し込んでいたその人物というのは誰なのか、聞かせてもらえるかな? 正直な話を」
「何だよぉ、その疑い方は」
 俺の不満には耳を貸さず、三杉は俺が開いていたノートパソコンを勝手に覗いた。
「ふうん、岬くんとの協力態勢だったってわけか、今回は」
「ああ、強引に相乗りしてきたっていうか、会見の仲介をウィンスロー教授に頼んでくれることになって。とにかくここで落ち合う約束だったんだ」
 俺は別のデータを呼び出した。
「これは俺の親父が昔書いた手記さ。かれこれ10年くらい前のね。当時の国連事務次官に取材したものなんだけど。これがな~んか妙なんだよね、どう考えても」
「ジャーナリストの嗅覚ってわけかい? でも疑問点があるなら父上に直接訊いてみればいいだろうに」
「教えてくれないんだ、頑として。しらばっくれたりとぼけたり。こうなったら俺にも意地があるもんね」
「それでわざわざ乗り込んできたのか。まったく似たもの親子だな、相変わらず」
 三杉は苦笑しながら、俺が示した資料に見入った。
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Ⅲ章 - 1 HOME Ⅲ章 - 3

・ もくじ ・

■ 登場人物
■ まえがき

第1章 サイレン
       

第2章 登頂
          

第3章 ゴールに続く道
          

第4章 鳥たちは還らない
    2   3   4     5

第5章 インタビュー
    2   3(終)

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はじめに

四つ子の事件簿シリーズです。 時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
 ・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。

最新コメント

おわりに

ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。          
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。          

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