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爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-

「岬の灯台殺人事件」          ~ 四つ子の事件簿第6話 ~

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Ⅴ章 - 2



             ◆



「なんでおまえがいるんだ。おまえ、あっち側の屋敷に…?」
 声がかすれる。岬がちょっと微笑んだ。手で、俺の顔をそーっと拭っている。
「だから、君のすぐ目の前にいるって言っただろ。ボクはずっと灯台にいたんだ」
「はぁ~?」
 俺は頭を打って錯乱してるのか? そう思いながらもぞもぞと体を起こす。今度はまっすぐ目の前に岬がいた。地面にしゃがんで俺と同じ高さに顔を合わせている。
「君と同じバスで来たんだよ。降りたのはちょっとだけ先だったけどね。ボクのほうが近道だったから先に着いてたんだ」
 同じバス? あのまばらな乗客の中に混じって、それでも俺に気づかれないくらい溶け込んでたって?
「じゃ、じゃあ、あの時ウィンスローが外に待ってたのは」
「うん、ボクを出迎えてそれから君を待ってたってこと。鉢合わせしないように注意しながらね」
 なんだなんだなんだー! 俺は叫びそうになった。ウィンスローはほんとにまったくもって俺を騙してくれたんだ。
「彼とはよくネット・チェスで手合わせするライバルだから、腕前もよくわかってた。任せても大丈夫って思ったから」
 ああ、実にその通りだよ。
「何度かこの土地へ足を運んで下準備してたんだ。ダネルが手引きして襲撃がありそうだって知ったから、ローバンさんには別のボートを頼んで避難してもらって。ボクのほうは君の監視をしてたってわけ」
「か、監視?」
 岬はこくんとうなづき、さらに口を開こうとしたがそこでやめた。そうしてゆっくりと立ち上がる。
「ソリマチ・サーン、大丈夫?」
 半地下にあたる勝手口にジェニファーの姿があった。こちらに手を振っている。
「じゃね。ほんと、ごめんね。ローバンさんとはすぐに会えるようにするよ。時効が来たから」
「おい、待てよ!」
 妙な言葉を残して岬は灯台の陰に消えた。
 しばらく呆然としたままなんとか頭を動かそうとする。
「灯台の連中が間違えてた俺って、ほんとは間違いじゃない分もあったのかも…」
 ローバンに会いに来る訪問者は、彼らに様々な利害関係をもたらすことになる。ある者はは迷惑がり、ある者は攻撃さえ加えようとする。岬はそれが自分に及ぶのを避けると同時に、俺が人違いで受けてしまうことも防ごうとしたんだ。
 クライブの情報提供者だったダネルがリックに寝返ったことが、殺人のきっかけとなってしまった。俺を見て岬だと思ったリックは逃げようとしてつかまり、偽装のため服を取り替えられた。クライブはダネルを灯台の上で殺した後、そのリックにダネルの代わりにボートの操縦をさせて屋敷に向かったのだろう。
「でもローバンはいなかった。すぐに取って返して俺を――岬と勘違いして締め上げることにしたんだな。ジェニファーにリックの残したメモを見せて襲ったのも、バレてると思って口封じしようとしたわけか」
 そこまではわかるとして、何だったんだ、さっきの岬の言ったことは…。
「ソリマチ・サン」
 まだへたったままの俺の前にジェニファーが歩み寄った。迎えに来てくれたのか。
「もう安心よ。警察がさっきやっと着いて、クライブさんは引き渡したわ。コンラッドが上でつかまえてくれたの。なんだかパニック起こして3階に駆け戻ってきたんですって」
 岬が2人いたからってパニック起こすなよ。甘い甘い。
「警察ね。まあギリギリでも来てくれて助かったよ」
 大きなタオルを俺に掛けてくれて、ジェニファーは笑顔を見せた。リックが無事だったとわかって、彼女の笑顔も元に戻ったってことだな。
「ひどい目に遭ったわね。でも、落ちたのが最後の踊り場でよかったわ。ほら、私の背くらいの高さだから」
 なんと最初に滑り落ちた時に俺はほとんど1階近くまで落ちてたんだ。これならなるほどタンコブくらいですみそうだ。
「さっき誰かと一緒にいたでしょ。ドクターだった? それともこちらの…」
「ひでえかっこだな、一樹。おぶってやろうか?」
 ジェニファーが振り返ったそこに、俺がまったくまったく予想していなかった顔があった。
「光! どっ、どーして?」
 ワールドカップ以来まったく会っていないこいつが、なんでよりによってこんな所に現われるんだ。
「北極に永住したんじゃないのかよ!」
「おまえに言われたかねえな」
 俺達の日本語の会話を、解らないながらも笑顔で聞いていたジェニファーが、ここで話に加わった。
「リックを助けてくれたのは、あなたの兄弟だったのよ、ソリマチ・サン。その漁船に乗ってたんですって」
「そんな馬鹿な」
 俺は完全にヤケクソになっていた。
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Ⅴ章 - 1 HOME Ⅴ章 - 3

・ もくじ ・

■ 登場人物
■ まえがき

第1章 サイレン
       

第2章 登頂
          

第3章 ゴールに続く道
          

第4章 鳥たちは還らない
    2   3   4     5

第5章 インタビュー
    2   3(終)

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はじめに

四つ子の事件簿シリーズです。 時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
 ・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。

最新コメント

おわりに

ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。          
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。          

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