爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-
「岬の灯台殺人事件」 ~ 四つ子の事件簿第6話 ~
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Ⅱ章 - 2
「材料は冷蔵庫にストックしてあるから、どれでも適当に…」
そのエディの声が途切れた。代わりにドアが開く音がして、エディが外に向かって呼びかける声が響く。
「誰かそこにいるんですか!」
「何だろう」
俺たちも立ち上がり、急いでキッチンを覗きに行く。エディは台所のドアを開けて外の様子を窺っていた。ジェニファーはそこにいたが先にキッチンに行ったはずのコンラッドがいない。管理人が呼びかけているのはそのコンラッドに向かってらしかった。
「おーい!」
激しい風雨の中で切れ切れに聞こえるのはそのコンラッドの声のようだった。
「外で何か物音がしたと言って、コンラッドが見に行ったんです」
側に行くとエディは振り返ってそう告げ、ドアを俺に預けて自分も外に駆け出していった。雨が風にあおられながら振り込んで来て俺は閉口しながら背後に目をやる。ジェニファーが当惑した顔でそこに立ち尽くしていた。
「一体、何が起きてるの、次々にここで…」
ジェニファーの声が震えた。泣き腫らした目にまた涙がにじんでいる。ウィンスローがその肩に手をかけて椅子に掛けさせ、ここで待つように言い聞かせた。
「ソリマチ・サン、我々は上を見てみましょう」
俺はドアを閉めてウィンスローと二人、ホールに戻る。
「灯台の外側に途中まで階段があります。中の3階部分に通じているんです」
「じゃ、行きましょ」
彼が壁に掛かったジャケットを手に取ったので俺も真似をして適当な防水ジャケットをつかむ。まだ灯台内部はこのホールまでしか案内してもらっていないのでウィンスローにひたすらついていくだけだ。
中の階段は灯台の円柱形になった吹き抜けにあって、下のホールから最初のフロアに当たる3階へと達している。2階はない。階段は2階の高さをそのまま過ぎていくのだ。
3階には居住者および滞在者の宿泊用の個室が並んでいた。階段はここから上は螺旋階段となってさらに上に続いていたが、ウィンスローは個室のドアが並ぶ3階の廊下を先へと進んだ。その廊下の突き当たりのドアを開こうとしている。
「わわっ?」
ものすごい風が吹き込んだ。内開きの扉が壁にぶつかる鈍い音が響いて、俺は思わず声を上げてしまう。
「こっち、風上?」
地上から高い分だけ風は強く感じる。もちろん雨粒も容赦なく吹き込んで来るので俺は腕をかざして顔をかばいながらドアに近づいた。
「ウィンスローさん?」
俺が押し戻されている間に先に出たウィンスローの返事がないのでしかたなくドアの外に足を踏み出す。
こ、怖い。
灯台の外階段。そこは既に3階の高さなんかじゃなかった。3階プラス断崖の高さ。その遥か下に白い波しぶきがかろうじて見える。
しかも体が浮き上がりそうなくらいの強風だ。こんな状況で平常心でいられるわけがない。
が、その平常心が少しでも残っていたとして、次に俺の目に飛び込んだ光景に完璧に吹っ飛ばされたに違いない。
「わーっ!」
吹きさらしの非常階段の最初の踊り場に、大きな体が倒れ伏していた。ぱたぱたと風にあおられるフードの陰から赤い血が広がっていく。
「どうした!」
下から駆け上がってくる足音がした。コンラッドと管理人のエディ。
二人は登りきったそこで同じく凍りつく。まずエディがウィンスローに駆け寄り、その横でコンラッドが俺を睨み上げた。
「やっぱりおまえか! おまえがやったんだな!」
「やっぱりって…そんな」
階段の手すりに必死にしがみつきながら、俺は一人でそうつぶやくしかなかった。
◆
「とりあえず応急処置はしたが…」
エディが立ち上がってベッドからこちらに向き直った。同じ3階にあるウィンスローの部屋に3人がかりで運んだのだが。
「意識が戻らないとなると早くちゃんとした治療をしないと」
「唯一の医者本人がこうじゃ、俺たちにはどうしようもないな」
そうつぶやいて振り向いたコンラッドがいきなり厳しい視線を俺に向けた。
「教授までこんな目にあわせるとはどういうことだ!」
「までって、何…。俺は何も――」
コンラッドばかりかエディの表情も険しい。俺はじりっと後ずさった。
「俺はウィンスローさんと二人で探しに上がってみただけですよー。そもそもコンラッドさんが外で何かって言うから…」
「俺はキッチンで物音を聞いて外に出たんだ。エディも一緒にあたりを探したが何も見つからなくて戻ろうとしたら、今度はこっちで大きな音がして急いで上がってきたらこのざまだ!」
「俺だって何も見てないよぉ…」
「ふん」 コンラッドは目を細めた。「じゃあ訊くが、あんた以外の誰が教授を襲えるって言うんだ。他に誰かいたならそいつはどこへ行った。階段の下からは俺たちが、そして上にはあんただけがいた。廊下には濡れた跡はなかったぞ。その犯人はどこへ消えたんだ」
「風で吹き飛んじゃったとか」
ジョークはここでは完全にお呼びじゃなかった。
そのエディの声が途切れた。代わりにドアが開く音がして、エディが外に向かって呼びかける声が響く。
「誰かそこにいるんですか!」
「何だろう」
俺たちも立ち上がり、急いでキッチンを覗きに行く。エディは台所のドアを開けて外の様子を窺っていた。ジェニファーはそこにいたが先にキッチンに行ったはずのコンラッドがいない。管理人が呼びかけているのはそのコンラッドに向かってらしかった。
「おーい!」
激しい風雨の中で切れ切れに聞こえるのはそのコンラッドの声のようだった。
「外で何か物音がしたと言って、コンラッドが見に行ったんです」
側に行くとエディは振り返ってそう告げ、ドアを俺に預けて自分も外に駆け出していった。雨が風にあおられながら振り込んで来て俺は閉口しながら背後に目をやる。ジェニファーが当惑した顔でそこに立ち尽くしていた。
「一体、何が起きてるの、次々にここで…」
ジェニファーの声が震えた。泣き腫らした目にまた涙がにじんでいる。ウィンスローがその肩に手をかけて椅子に掛けさせ、ここで待つように言い聞かせた。
「ソリマチ・サン、我々は上を見てみましょう」
俺はドアを閉めてウィンスローと二人、ホールに戻る。
「灯台の外側に途中まで階段があります。中の3階部分に通じているんです」
「じゃ、行きましょ」
彼が壁に掛かったジャケットを手に取ったので俺も真似をして適当な防水ジャケットをつかむ。まだ灯台内部はこのホールまでしか案内してもらっていないのでウィンスローにひたすらついていくだけだ。
中の階段は灯台の円柱形になった吹き抜けにあって、下のホールから最初のフロアに当たる3階へと達している。2階はない。階段は2階の高さをそのまま過ぎていくのだ。
3階には居住者および滞在者の宿泊用の個室が並んでいた。階段はここから上は螺旋階段となってさらに上に続いていたが、ウィンスローは個室のドアが並ぶ3階の廊下を先へと進んだ。その廊下の突き当たりのドアを開こうとしている。
「わわっ?」
ものすごい風が吹き込んだ。内開きの扉が壁にぶつかる鈍い音が響いて、俺は思わず声を上げてしまう。
「こっち、風上?」
地上から高い分だけ風は強く感じる。もちろん雨粒も容赦なく吹き込んで来るので俺は腕をかざして顔をかばいながらドアに近づいた。
「ウィンスローさん?」
俺が押し戻されている間に先に出たウィンスローの返事がないのでしかたなくドアの外に足を踏み出す。
こ、怖い。
灯台の外階段。そこは既に3階の高さなんかじゃなかった。3階プラス断崖の高さ。その遥か下に白い波しぶきがかろうじて見える。
しかも体が浮き上がりそうなくらいの強風だ。こんな状況で平常心でいられるわけがない。
が、その平常心が少しでも残っていたとして、次に俺の目に飛び込んだ光景に完璧に吹っ飛ばされたに違いない。
「わーっ!」
吹きさらしの非常階段の最初の踊り場に、大きな体が倒れ伏していた。ぱたぱたと風にあおられるフードの陰から赤い血が広がっていく。
「どうした!」
下から駆け上がってくる足音がした。コンラッドと管理人のエディ。
二人は登りきったそこで同じく凍りつく。まずエディがウィンスローに駆け寄り、その横でコンラッドが俺を睨み上げた。
「やっぱりおまえか! おまえがやったんだな!」
「やっぱりって…そんな」
階段の手すりに必死にしがみつきながら、俺は一人でそうつぶやくしかなかった。
◆
「とりあえず応急処置はしたが…」
エディが立ち上がってベッドからこちらに向き直った。同じ3階にあるウィンスローの部屋に3人がかりで運んだのだが。
「意識が戻らないとなると早くちゃんとした治療をしないと」
「唯一の医者本人がこうじゃ、俺たちにはどうしようもないな」
そうつぶやいて振り向いたコンラッドがいきなり厳しい視線を俺に向けた。
「教授までこんな目にあわせるとはどういうことだ!」
「までって、何…。俺は何も――」
コンラッドばかりかエディの表情も険しい。俺はじりっと後ずさった。
「俺はウィンスローさんと二人で探しに上がってみただけですよー。そもそもコンラッドさんが外で何かって言うから…」
「俺はキッチンで物音を聞いて外に出たんだ。エディも一緒にあたりを探したが何も見つからなくて戻ろうとしたら、今度はこっちで大きな音がして急いで上がってきたらこのざまだ!」
「俺だって何も見てないよぉ…」
「ふん」 コンラッドは目を細めた。「じゃあ訊くが、あんた以外の誰が教授を襲えるって言うんだ。他に誰かいたならそいつはどこへ行った。階段の下からは俺たちが、そして上にはあんただけがいた。廊下には濡れた跡はなかったぞ。その犯人はどこへ消えたんだ」
「風で吹き飛んじゃったとか」
ジョークはここでは完全にお呼びじゃなかった。
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・ もくじ ・
■ 登場人物
■ まえがき
第1章 サイレン
1 2 3
第2章 登頂
1 2 3 4
第3章 ゴールに続く道
1 2 3 4
第4章 鳥たちは還らない
1 2 3 4 5
第5章 インタビュー
1 2 3(終)
■ まえがき
第1章 サイレン
1 2 3
第2章 登頂
1 2 3 4
第3章 ゴールに続く道
1 2 3 4
第4章 鳥たちは還らない
1 2 3 4 5
第5章 インタビュー
1 2 3(終)
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はじめに
四つ子の事件簿シリーズです。
時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。
最新コメント
おわりに
ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。
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