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爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-

「岬の灯台殺人事件」          ~ 四つ子の事件簿第6話 ~

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Ⅳ章 ー 5



「……!」
 弾かれたようにジェニファーが飛び出した。吹き抜けに落ちそうな勢いで下を覗く。コンラッドは3階から叫んでいるようだ。
「安心しろ、リックは生きてる。かなり参ってるらしいが」
 突然の大ニュースだった。真っ先に駆け下りて行くジェニファーの後を男どもがあわてて続く。それを3階で待ちながらコンラッドが声を張り上げた。
「沖に流されてるのを、通りかかった漁船が見つけてくれたんだ。シリー諸島の漁船だ」
 シリー諸島とはここコンウォールの先端からわずかに沖に位置する諸島だ。こちらからも声をかける。
「じゃあ、あのボートに乗ってたほうがリックだったってわけか。乗り手を失ったボートだけが岸に打ち寄せられて」
「まさに入れ替わっていたことになるな、ダネルと」
 螺旋階段部分を降り切って、ジェニファーは物も言わずにコンラッドの首にしがみついた。
「ああ、よかったな、ジェニファー。どうやらもうすぐ着くらしいから待っててやろうじゃないか」
 その背中をぽんぽんと優しく叩いてから、コンラッドはジェニファーにうなづいて階下を指した。ジェニファーは管理棟の階段に駆けて行き、姿を消す。ほんと、その後ろ姿に嬉しさがにじみ出ていたといったら。
 リックを救助した漁船はとりあえずこの灯台に向かっているらしい。病院は遠いがここなら医者が二人もいる。
「ドクター・ミスギ、リックが到着したら診察をよろしく。私は臨床系ではないので危なっかしい」
「ええ、いいですよ。ただ私も溺れた患者を診た経験はないので、心許ないですが」
 そりゃそうだ。サッカーのフィールドで溺れた奴はまずいないはずだからな。
 俺は列のしんがりにいたが、そこでふと思い出したことがあった。そう、岬のことだ。
 俺は一人で自分の部屋に戻った。パソコンはまだそのままになっている。さっきも使った専用の通信ソフトを起動した。
『おい、おまえは今どこにいるんだ』
 岬はラインの向こう側に待っていた。
『やっと気づいたんだ。そう、君の目の前だよ』
『ローバン氏は一緒なのか』
『ううん、彼は避難できたって。この嵐だもの』
『おまえはいいのか』
『ボクは大丈夫』
 問い詰めてやる、と意気込むほどこいつは遠くなる気がする。いや、今度こそはぐらかされてたまるもんか。
『ウィンスローを使って俺をうまくだましてくれたよな。最初からそういう計画だったのか』
『君をだますのが目的だったわけじゃないよ、一応。ボクがここに来るのに色々障害物があって、それをなんとかするために君を巻き込むしかなかったんだ。ほら、他人をだますならまず身内からって言うじゃない?』
 くそ、俺はいっそ他人でいたかったよ。
『ローバン氏はそれだけの人物ってわけだな。おまえが動き、この灯台の常連がそれぞれに動き、互いに牽制し監視し警戒してる。で、おまえは彼にどういう用事があるってわけ?』
『ストレートな質問だなあ。10年前の国際条約会議、あの時のウラ話を明かしてもらうんだ、って言ったでしょ』
『言ったのは俺だ! おまえもまったく同じってわけあるか』
『それが同じだったんだよね、使い道が違うだけで。君は君のお父さんの記事の矛盾点を解決したい。ボクはボクの調査に彼の証言が必要。それだけさ』
 岬の「それだけ」はノーコメントと同じってことを俺はよーく知っていた。アプローチを変える。
『ローバンは随分人を避けた生活をしていたらしいけどなぜそこまでする必要があったんだ。現役時代にはこれといった華々しい実績もないのに』
『そりゃ静かな生活をしたかったからじゃないの? 国連って原則としては中立でしょ。中立なんて立場を保つためにはそりゃもう無理なことがあれこれあるわけだよ。見ちゃいけないものを見て、聞いちゃいけないことを聞いて、そしてそれを全部なかったことにして初めて中立でいられるんだ。そこから解放された人が今度こそ自由でいたいって思うのは当然だと思うな。自分の意見は自分の意思で言いたい、ってね』
『おい、ってことは、ローバンは過去のあれこれ隠された事実を発表しようとしてるのか? いくら引退しててもそれは危険じゃないか』
『もちろん危険だろうね。だからボクがそれを引き受けようって話なんだ。その危険をね』
 俺は唖然とした。
 岬とローバン氏の接点はそこにあったのだ。
『じゃあ、彼の持つ情報をお前が世間に出す役をするのか? おまえのその「研究」の中で…』
『そうだなあ。本の出版になるかもしれないし、マスメディアを利用するかもしれないし、単にボクのデータベースに入るだけのものもあるかもしれないけど、簡単に言えばそうなるね』
 なんてこった、それなら親父の記事の比じゃないぞ。まさに激震だ。岬本人に返ってくる揺り戻しも半端じゃないだろう。
『おまえ、大丈夫なのか、そこまでして』
『だから時期を待ってたんだ。君のお父さんが鍵だったから』
 な、何だって?
 俺は岬とのやりとりに必死になっていた。
 そう、背後からの人影に気づくのがその分だけ遅れたのだ。




【第Ⅳ章 おわり】


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・ もくじ ・

■ 登場人物
■ まえがき

第1章 サイレン
       

第2章 登頂
          

第3章 ゴールに続く道
          

第4章 鳥たちは還らない
    2   3   4     5

第5章 インタビュー
    2   3(終)

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はじめに

四つ子の事件簿シリーズです。 時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
 ・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。

最新コメント

おわりに

ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。          
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。          

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