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爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-

「岬の灯台殺人事件」          ~ 四つ子の事件簿第6話 ~

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Ⅳ章 ー 4

「あ、届きそうです。ちょうどこのドアの前だし」
 大柄なウィンスローが風雨の中へ腕をいっぱいに伸ばし、そこに引っかかっていたものを回収した。
「服だ。服の一部が破れたかしたものですね」
「見せて。それ、見覚えが…」
 ジェニファーは一目見ただけで断言した。
「リックの制服に間違いないわ。胸ポケットのフリップ、取れたの最近縫ってあげたばかりだったの」
「てことは――下で見つかったあの死体はここで殺されてから落とされたもの?」
 俺たちは無言で互いの顔を見合わせた。聞こえるのは重く低くうなる風の音。そして闇の下、足元を崩さんばかりに押し寄せる海の重圧感。
「事故じゃなく、殺人…?」
 ジェニファーの声はわずかに震えていた。彼女の恋人は明らかに事件に関わっており、被害者か加害者かそれすらもわからないまま行方が知れないということだ。
「被害者はこのバルコニーでしばらく放置されていますね。この一ヵ所だけ血だまりになった跡がある。雨でかなり消えかけていますが、少なくとも自分で動けているなら血の跡はもっと広範囲になるはずです。既に無抵抗な状態、だったということですね。つまり意識がなかったかもしくは死んでいるか…」
 三杉はウィンスローを振り返った。
「灯台の真下の海で見つかったんでしたよね。第一発見者は誰でしたか?」
「ああ、それは――」
「僕です」
 俺達の背後で、いきなり別の声が割り込む。
「エディ!」
 俺たちが話に集中していた間に上がってきたのか、管理人のエディ・マ-カスが灯室に姿を見せていた。
「ただし、岩場でじゃなくここだったんです。最初に発見したのは」
 エディはガラスの向こうのバルコニーに目をやった。
「嵐になりそうだというので僕は日没前に点検をしておこうと思いました。一人で上がってくると、ガラス越しに誰かがいるのが見えたんです。その手すりの前にぐったりと倒れていて顔も服装もしっかり確認できました。そして既に死んでいることも…。ダネルだったんです」
「ダネルって、まさか! ボートから落ちたんじゃなく、ここから落ちたって?」
 俺が詰め寄ると、エディは目をそらして答えた。
「彼に間違いないです。直接の知り合いではないですが、顔はわかります。リックとは同じ村出身の幼なじみなこともあってよく会いにきてましたから」
「つまり死体を落としたのは、あなただった…?」
 三杉の言葉に誰もがぎょっとする。エディは苦しい顔でうなづいた。
「リックの幼なじみがリックの服を着て死んでいる――。私はリックが犯人なのでは…と動転して、とっさに手を出してしまいました。証拠を消すつもりで」
「でも死体は海ではなく岩場に落ちてしまった。――するとあなたは死体を回収すると見せかけて逆に流してしまおうとしたんですね。私達を敢えて目撃者にした上で」
 ウィンスローがまっすぐ見つめながら問いかけ、エディはここで、がっくりとうなだれた。
「本当に、馬鹿なことをしてしまったものです。リックが犯人ともきまったわけでもなかったのに」
「もしや動機にも心当たりがおありだったからとか…?」
 三杉の言葉に、エディはのろのろと顔を上げる。
「あの屋敷です。彼ら二人はずっとあの屋敷に興味を持っていましたから」
「あそこが?」
 俺が振り返ったので、ウィンスローは驚いた顔のまま俺と目を合わせた。
「あんな家、不動産的にはほとんど価値はありませんよ。あの断層が道を塞いで以来、そもそも住める環境じゃないし、だからこそ祖父一家は手離したんです。あのローバン氏も人目を避ける以外の利点は認めてないくらいですから」
「家ではなく、そのローバン氏狙いだとしたら」
 エディが闇の向こう、屋敷の方向に視線を投げた。
「ダネルがリックに会いに来ていた時、一度通りすがりに耳に入ったんです。直接行って奪おうとか何とかいう会話でした。いっそ先回りしよう…とも。彼らはローバン氏自身の財産を奪おうとしていたんじゃないでしょうか」
「じゃあ、彼らが警戒していた『訪問者』って――」
『彼らの計画を阻止しようとする存在、さらに犯行後に足がつく危険性を持つ存在、だったのでは」
 エディは、リックの上司として止められなかったことを悔やんでいるようだった。結果、人ひとりが命を落とすことになったのだから当然だが。
「財産狙いか。ダネルは使用人でありながら何か勘違いしていたようだな。価値のある美術品や貴金属でも持っているとでも思ったのかな」
「それとも間違った情報を吹き込まれてたかだ」
 それは俺の憶測に過ぎなかったのだが。
「なら、リックがやっぱりその人を…? 仲間割れか何かで」
 ジェニファーは蒼白になっていた。
「姿を消したのは2人だ。リックとクライブさん。まだ可能性としては半々だと考えたほうがいい」
 ウィンスローが静かにそう言った時。
「おーい、みんな、そっちにいるのか!」
 吹き抜けに反響するどら声が俺達の耳に届いた。
「あ、コンラッド」
 灯室から階段に出るドアを開いてエディが下に呼び掛けた。
「何やってんだ、そんな所に集まって。ジェニファーもそこにいるのか? 今連絡が入って――リックが見つかったんだ!」
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・ もくじ ・

■ 登場人物
■ まえがき

第1章 サイレン
       

第2章 登頂
          

第3章 ゴールに続く道
          

第4章 鳥たちは還らない
    2   3   4     5

第5章 インタビュー
    2   3(終)

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はじめに

四つ子の事件簿シリーズです。 時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
 ・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。

最新コメント

おわりに

ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。          
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。          

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