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爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-

「岬の灯台殺人事件」          ~ 四つ子の事件簿第6話 ~

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Ⅳ章 ー 3

「君は高い所って全然平気みたいだねー」
 俺はしんがりからジェニファーに声をかけた。
「そりゃあバードウォッチャーですもの。海鳥の営巣の調査なんて崖登りの連続よ。アイルランドではもっとすごい崖も調べたことがあるわ」
「その点、サッカー選手の職場は平坦ですからね」
 先を行く三杉がくすくすと笑った。ジェニファーが目を丸くする。
「あの…よく見るとやっぱり似てらっしゃらないところもあるんですね、ご兄弟でも。ドクターはソリマチ・サンと別の意味でサッカー選手には見えないわ」
「この男の話は半分くらいに聞いておかないと大変なことになりますよ」
 三杉は俺のほうをちらりと振り返った。螺旋階段なので嫌でも互いの顔が見える。
「えっ、でも半分って、兄弟なのも…?」
「ええ、実の兄弟ではないですから。しいて言うなら彼の息子の養父役です。僕の子供たちと一緒に暮らしてますから」
「あら、結婚なさってたの、ソリマチ・サン。お子さんまで」
「それも半分ってことで」
 などと軽口を交わしているうちに、最上階、つまり灯台の心臓部である灯楼に着いた。
「うわ、思ったより小さいんだ」
 日本風に言うと四畳半に相当するくらいの円形の部屋だ。
 その中央に俺の背くらいの高さの灯器が据えられていていて、黙々とひたすら黙々と回り続けている。たぶん中心に強力な光源があるのだろう。それを守るように、ギザギザと凹凸加工されたガラスの覆いがされていて、実は回転しているのはこちらだった。
「これは…」
 ウィンスローがその覆い――フレネルレンズといって光源を何百倍の明るさに増幅させる反射装置だそうだ――の前に顔を寄せてじっくりと確認する。
「血液じゃないですか? かなりの量のようだ。これがレンズに付着したせいで灯台の閃光がいつもと違って見えたんですよ。灯台ごとに定められた周期や色なんかが識別信号になっていますからね」
「それで船から問い合わせがあったってわけか。でもここで何があったんだ? いわゆる争った跡、ってことかな」
 レンズはぐるぐる回っている。血の跡を辿るためには全方向を調べなければならなかった。
「これだ」
 それは時間が経って変色した痕跡だった。かすれた血のしみが帯のように床に続いている。
「引きずられていますね」
 膝をついて三杉が覗き込んだ。
「もう自分では動けなかったらしい」
「ね、見て。外の手すりの所」
 灯室の窓部分に立って外を見渡していたジェニファーが声を上げる。
「ほらそこ。何か見えない?布か何か」
「出て確認してみましょう。ええとそちらにドアが…」
 ウィンスローがそう言いながらくぐり戸のようなドアを開いた。
 後で知ったが、灯台の命ともいえるこの外部ガラスは汚れやキズがないよう保つのが管理上の鉄則の一つ。だから清掃用にこのバルコニー部分があるのだという。こんな所の清掃って、ビルの窓掃除以上の恐ろしさだろう、きっと。
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・ もくじ ・

■ 登場人物
■ まえがき

第1章 サイレン
       

第2章 登頂
          

第3章 ゴールに続く道
          

第4章 鳥たちは還らない
    2   3   4     5

第5章 インタビュー
    2   3(終)

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はじめに

四つ子の事件簿シリーズです。 時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
 ・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。

最新コメント

おわりに

ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。          
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。          

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