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爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-

「岬の灯台殺人事件」          ~ 四つ子の事件簿第6話 ~

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Ⅱ章 - 3

「あの…」
 ドアが小さく開いてジェニファーの顔が覗いた。天の助けだろうか。
「電話があって、警察も救急車も今、手がさけないから待ってくれ…ってことなんだけど」
「なんだ、そりゃ!」
 コンラッドがいきり立った。ジェニファーはドアをもう少し開いてためらいがちに部屋の中に滑り込む。
「この北のほうで変電所に落雷があったらしいの。怪我人がたくさん出てそっちの救助にみんな向かった後だって」
「こっちだって緊急だぞ! ここにも怪我人がいるんだ。後回しなんてことがあるか!」
「ええ、だから」
 怒りの形相のコンラッドをなだめるようにジェニファーが少し歩み寄った。
「お医者様を一人、往診って形でこっちに来てもらえるようにしたそうよ」
 横からエディも不安そうに話に加わった。
「医者はもちろんありがたいが、警察も急いでほしいんだ。クライブさんとリックのことがあるから。――僕からもう一度要請してみよう」
 そう行ってエディは階下に下りていった。じりじりした空気はそのまま残り、そしてそれは必然的に俺に向けられた。
「おい、この天気も災害もあんたのせいだとは言いたくないがな、よくもここまで次々と厄介を重ねてくれるな」
「いや、ホントに俺のせいじゃないってば。…落雷まで押しつけないでほしいよ、この上」
「なんだと!」
 やっぱりワールドカップの恨みは根深い。俺はすっかり悪者扱いだ。それだって濡れ衣なのにさ。俺は心の中で岬を恨んだ。
「私、このソリマチ・サンは違うと思うのよ」
 横からジェニファーが言った。ああ、やっぱり天の助けは存在したんだ。化粧っけのない彼女の顔が天使にさえ見えてしまう。
「だってウィンスローはこんなに大男でしょう。ソリマチ・サンじゃ頭から襲い掛かるのは無理だわ。しかも高所恐怖症ときては…」
「おいおい~」
 天使の指摘はけっこうキツかった。しかしコンラッドには多少効き目があったらしい。
「ふん、一理あるな。しかしこいつが犯人候補の一番手なのは変わりないんだ。これ以上怪しいことをしでかさないうちに閉じ込めておこう」
「ちょ、ちょっと」
 好転しかけた空気は逆効果へと変わった。俺は廊下に連れ出されて真向かいの部屋に押し込められる。がっちり鍵までかかる始末。そこへ電話を終えたらしい管理人の声も加わったのがドアの向こうに聞こえたからこれは全員一致の合意の上ってことになる。
 なら抵抗しても無駄か。
 俺は割り切ってとりあえずこの部屋に落ち着くことに決めた。
 木の床にシングルベッドが一つ。シーツはきちんと新しいから、俺的には合格点をつけてまずは座り込む。一つだけの窓に目をやると、暗闇にぼーっと光の帯が通り過ぎるのが見えた。
 ああ、そうだ、灯台なんだっけと今さら思う。
 回転する光が窓の外の荒れる風雨を照らし上げながらゆっくりと視界から消えていった。そしてそのまま待っていると30秒ほどして再び窓の外を横切っていく。
 光源はこのずっと頭上にあるのだからこの窓に直接当たるわけではないが、一定時間ごとに外は照らされることになる。
「そうだ、さっきも――」
 非常階段のドアの外、1メートル四方ほどのその踊り場を確かにこの光は通って行った。俺が出て行ったと同時に光が差して俺はそこにウィンスローが倒れているのを目にしたわけだが、その光が通り過ぎる前に下から上がってくるエディとコンラッドが声を上げている。もしウィンスローが出て行って俺が続くまでの間に誰かが襲ったのなら、そいつを見落とすことはなかったことになる。もちろん階段下に逃げたなら二人と鉢合わせしているわけだし。
 もしもあの天候、あの危なっかしいシチュエーションで宙にぶら下がったりそこらの壁にへばりついたりできるヤツがいたら俺は尊敬する。
「ほんとに、コンラッドの言う通りだ。俺しかいないじゃん」
 …と納得してどうする!
 自分で自分に突っ込んでおいて、俺は改めて状況を整理することにした。
「リックって人はここの常駐職員でエディの助手、そしてジェニファーの恋人でもあった…と。まだ見つかっていないクライブはここは初めてじゃなく、コンラッドとは仲が悪かった。みんなそれぞれ常連客で互いに顔は見知っているのに俺だけが新参者で、俺の身元を保証できるはずのウィンスローは意識が戻らないまま――あああ、これじゃ疑われっぱなしだよ!」
 がっくりとうなだれる。これじゃ何しに来たんだか。
「そうだよ、何しに来たかって…」
 俺は跳ね起きた。ドアに向かって突進し、ドンドンと叩き始める。向かいのウィンスローの部屋にはまだ誰かいるはずだ。
「――おい、騒々しいぞ」
 予想した通り足音がドアの外に近づいた。コンラッドの声だ。
「あのさ、俺の荷物持ってきてもらえないかな。まだ下のキッチンに置いたままになってるんだけど」
「荷物だ?」
 警戒心いっぱいの声は一度そこを離れ、向こう側で誰かとひそひそやりとりしているのがわかった。相手はエディらしい。
「あんたのカバンならここにある。エディがさっき運んで来たんだ。中身を改めるためにな」
「いいよ、調べるのは。でも俺も一緒に立ち合わせてくれるかなあ」
 また協議に入った。黙って待っていると鍵を外す音がしてドアが開く。
「いいだろう。この部屋で調べることにしよう」
 管理人が俺のバッグを手に入ってきた。コンラッドとなぜかジェニファーも続いて入ってくる。全員立会いってわけか。
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・ もくじ ・

■ 登場人物
■ まえがき

第1章 サイレン
       

第2章 登頂
          

第3章 ゴールに続く道
          

第4章 鳥たちは還らない
    2   3   4     5

第5章 インタビュー
    2   3(終)

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はじめに

四つ子の事件簿シリーズです。 時期は一気に飛んで、四つ子たちは30歳過ぎになっています。その点では番外編的な位置かな。
舞台はイギリス。またいつもと違って反町の一人称で書かれています。
連載は15回の予定。では最後までどうぞよろしく。
 ・ ・ ・ ・ ・
ものすごくお待たせしました。続きをお送りします。

最新コメント

おわりに

ようやく完結です。10年以上もかかるなんて。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。回数も延びて全19回となりました。          
推理ものとしてガバガバではありますが、海外ミステリーの雰囲気だけでもお楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。          

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