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  <title>爬虫類に雨が降る-Reptile waits for their days-</title>
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  <description>「岬の灯台殺人事件」　　　　　　　　　　～　四つ子の事件簿第６話　～</description>
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    <title>Ⅴ章　－　３</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<br />
　　　　　　　　　　　　　　◆<br />
<br />
<br />
　キッチンに入ると、そこにはエディとウィンスローがいて、なごやかにお茶を飲んでいるところだった。<br />
「災難でしたね、ソリマチ・サン。まあそこに掛けて、温かいものをどうぞ」<br />
　俺はウィンスローに言いたいことはいっぱいあったが、まだ頭の中の整理がつかず、濡れた子犬みたいにぐるるる&hellip;と小さく唸っていた。<br />
　松山は、初対面のこの輪の中に何の遠慮もない様子で加わっている。明るい場所で改めて見ると、まさに雪焼け、真っ黒な顔でもうサッカー選手の面影などどこにもない。<br />
「イングランド戦はもちろんフル出場してたよ。ま、ディフェンスはあまり映らないから気がつかなかったんだろうな」<br />
　そうそう、実はあのワールドカップで日本の全試合にフル出場したのが、岬でも三杉でももちろん俺でもなくこの松山だったのだ。なのにこんな調子じゃ、岬に間違えられる心配なんかするだけ無駄というものだ。<br />
「イギリスで淳と落ち合う約束でシリー諸島に来てたんだけど、ほら、退屈でさ、頼んで漁船に乗せてもらったりして暇つぶししてたんだ」<br />
　シリー諸島というのは、イギリスの西の果て、このコンウォールの突端の先にある、名実共に最西端の島だ。なぜ、この松山がそんなとこで待ち合わせを？<br />
「おいおい、ほんとに３人揃っちまってるじゃないか。これでもまだ全員じゃないなんて、信じられんな」<br />
「やあ一樹、早く拭いておかないと君まで風邪を引くよ」<br />
　そこにコンラッドと三杉が現われた。<br />
　さすがにコンラッドはすまなそうな顔だ。<br />
「悪いことをしちまったな。なにせ、手がかりがほとんどなくて、あのワールドカップのビデオじゃあんたたちの区別がまるでつかなかったんだ」<br />
「だからー、そこまで似てないってば、俺達は」<br />
「その主張は海外では通じないようだね、残念ながら。そうでなくても日本人はみな似ているなんて言われるくらいだ」<br />
　リックの診察はとりあえず終わったのだろう。どうやら問題はなく、風邪を引いただけだったらしい。さすがは地元育ち。あの嵐の海を泳ぐような真似は俺だったら絶対遠慮する。まあ灯台から落とされるのとどっちもどっちだが。<br />
　俺は三杉の言葉に顔を上げたが、説明を始める気にはまだなれなかった。ほんと、力が抜けたまま戻らない。<br />
　カップを持って、とりあえず紅茶を飲むことにする。ああ、湯気がオデコの傷に痛いったら。<br />
「黙っててすまん。俺は本当は王立空軍の情報部の人間なんだ。ローバンに関しては以前からマークしていて、ま、国家機密ってやつを守るためには疑心暗鬼にならざるを得んってことがあってな。あのクライブもブラックリストに載せてたんだが」<br />
　なるほどね。それで俺を疑いまくってたと。まあ確かに画家を名乗ればしょっちゅう来ては監視するのも楽だったろう。<br />
「なあ、淳」<br />
　飲み終えたカップをテーブルに置いて、俺はやっと口を開いた。<br />
「おまえも実は実感してんだろ？　岬と間違えられるってやっぱ、命がけだって」<br />
「僕にとっては、まず不本意だってことだけだよ。君みたいな目に遭ったことはないし」<br />
　問題の２人が揃って証言する。<br />
「俺はもう慣れちまったかな。と言っても、最近は間違えられること自体ほとんどないけどな」<br />
　そもそも松山を見間違えようにも、人間とほとんど接触しない場所で暮らしているこいつをどうしろって言うんだ。白熊かペンギン相手ならいざ知らず。<br />
「あら、ソリマチ・サン。ペンギンは南半球でしょ。大きな鳥ならワタリガラスってあたりね」<br />
　いや、だからジェニファー、俺は専門家じゃないけどそれくらいはわかってるってば。<br />
「今回のことでは協力もしてもらったし迷惑もかけた。マツヤマの密入国は目をつぶって、パスポートには空軍基地の入国スタンプを進呈するよ。空軍が救助した遭難者ということにして」<br />
　コンラッドがとんでもないことを言い出した。<br />
　松山が密入国って、何だよ。<br />
「パスポート不携帯のままシリー諸島にいたんだよ。僕は新しく再発行してもらったパスポートを届けに来たんだ。ああ、もちろん二人でコンウォールの休暇を楽しむためにもね」<br />
「グリーンランドで遠出中に犬達に食われちまったもんでな。俺だけソリとはぐれて遭難しかけたんだ。待ってる間に腹を減らした犬達が、勝手に荷物をあさって中身を食っちまって。その中にパスポートもあったってわけだ」<br />
「グリーンランドの漁船からシリー諸島の漁船に乗り継いで大西洋を渡ってきたんだ、光は。まあ、大使館に知り合いがいたから融通をきかせてもらったんだけどね」<br />
　ああ、ここの会話って、一般人そのものの俺にはキツすぎる。<br />
「淳、おまえここに来てすぐ、全員が隠し事をしてるって言い当ててたよな。おまえ自身までそうだったなんて、あんまりじゃん」<br />
「大人だからね」<br />
　そういう問題か？<br />
<br />
<br />
<br />
　　　　　　　　　　　　　　◆<br />
<br />
<br />
　岬はあれきり姿を見せることはなかった。<br />
　だが、謎の言葉の意味はまもなく解けた。ローバンと会った日に。<br />
「あの記事は、ちょいとやばい手を使っちまったもんでな」<br />
「あのな&hellip;」<br />
　俺は最後にもう一度絶句するはめになった。<br />
「だったら最初からそう言えよ！　俺を振り回すだけ振り回して、それでも親か！」<br />
「まあまあカズキ、しかたなかったんだ。そう怒らずに」<br />
　なだめるウィリアム・Ｎ・ローバン氏の隣で、Ｋ・ソリマチこと俺の親父が平然と座っている。<br />
「そりゃ確かに法律上は窃盗と不法侵入になるけどな、あの時はああするしか手がなかったんだぞ。このローバンさんもあえて手助けしてくれたわけだし」<br />
「なに、私が立場上できなかったことをあなたが代わりにやってくれたんですから。もっとも時効が成立するまでは記事の情報源を明かせなかっただけで」<br />
　岬はこのこともちゃんと把握してたんだ。だからこそ、今回の会見を親父の記事の「公開期日」とすべく下準備をしていたってことだ。二人して前もって会いに来たり。しかも日付が変わって時効が成立したのが、俺が人違いで殺されかけていたあの時間だったなんて、あんまりだ。<br />
　岬はすでに「調査」をすませて消えた後だという。<br />
「俺、何しに来たんだろう、こんなとこまで」<br />
　ローバン氏に国連での黒子に徹した日々の平凡かつスリリングな裏話を詳しく聞かせてもらった後も、俺の心にはそんな疑問がぽかんと残った。<br />
　嵐の後は暖かく穏やかな天気が続き、三杉と松山は予定通りセント・アイヴスで数日間リゾートな時間を過ごした後、揃って東京に帰っていった。それを見送った後、俺は険しい海岸線を眺めながらふとあのバスの運転手の言葉を思い出していた。<br />
――あの灯台を訪ねる者は多いが、帰って来る数がどうも合わないんだ。かわりに海鳥が少しだけ増えるのさ。<br />
　ほんとに、ただの迷信のはずだったのに。<br />
　そこにいたはずの人間がいなくなり、いるはずのない人間が現われたり。<br />
　俺は頭上を飛び交う鳥達を見上げた。この中に、誰か知ってる奴が混じってたりして。<br />
　でも俺は、海鳥になることなくコンウォールを後にした。だってあんな高いところ跳ぶなんて、俺は絶対ごめんだものな。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　《ＥＮＤ》]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
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    <pubDate>Sun, 25 Apr 2021 00:47:36 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>Ⅴ章　－　２</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<br />
　　　　　　　　　　　　　◆<br />
<br />
<br />
<br />
「なんでおまえがいるんだ。おまえ、あっち側の屋敷に&hellip;？」<br />
　声がかすれる。岬がちょっと微笑んだ。手で、俺の顔をそーっと拭っている。<br />
「だから、君のすぐ目の前にいるって言っただろ。ボクはずっと灯台にいたんだ」<br />
「はぁ～？」<br />
　俺は頭を打って錯乱してるのか？　そう思いながらもぞもぞと体を起こす。今度はまっすぐ目の前に岬がいた。地面にしゃがんで俺と同じ高さに顔を合わせている。<br />
「君と同じバスで来たんだよ。降りたのはちょっとだけ先だったけどね。ボクのほうが近道だったから先に着いてたんだ」<br />
　同じバス？　あのまばらな乗客の中に混じって、それでも俺に気づかれないくらい溶け込んでたって？<br />
「じゃ、じゃあ、あの時ウィンスローが外に待ってたのは」<br />
「うん、ボクを出迎えてそれから君を待ってたってこと。鉢合わせしないように注意しながらね」<br />
　なんだなんだなんだー！　俺は叫びそうになった。ウィンスローはほんとにまったくもって俺を騙してくれたんだ。<br />
「彼とはよくネット・チェスで手合わせするライバルだから、腕前もよくわかってた。任せても大丈夫って思ったから」<br />
　ああ、実にその通りだよ。<br />
「何度かこの土地へ足を運んで下準備してたんだ。ダネルが手引きして襲撃がありそうだって知ったから、ローバンさんには別のボートを頼んで避難してもらって。ボクのほうは君の監視をしてたってわけ」<br />
「か、監視？」<br />
　岬はこくんとうなづき、さらに口を開こうとしたがそこでやめた。そうしてゆっくりと立ち上がる。<br />
「ソリマチ・サーン、大丈夫？」<br />
　半地下にあたる勝手口にジェニファーの姿があった。こちらに手を振っている。<br />
「じゃね。ほんと、ごめんね。ローバンさんとはすぐに会えるようにするよ。時効が来たから」<br />
「おい、待てよ！」<br />
　妙な言葉を残して岬は灯台の陰に消えた。<br />
　しばらく呆然としたままなんとか頭を動かそうとする。<br />
「灯台の連中が間違えてた俺って、ほんとは間違いじゃない分もあったのかも&hellip;」<br />
　ローバンに会いに来る訪問者は、彼らに様々な利害関係をもたらすことになる。ある者はは迷惑がり、ある者は攻撃さえ加えようとする。岬はそれが自分に及ぶのを避けると同時に、俺が人違いで受けてしまうことも防ごうとしたんだ。<br />
　クライブの情報提供者だったダネルがリックに寝返ったことが、殺人のきっかけとなってしまった。俺を見て岬だと思ったリックは逃げようとしてつかまり、偽装のため服を取り替えられた。クライブはダネルを灯台の上で殺した後、そのリックにダネルの代わりにボートの操縦をさせて屋敷に向かったのだろう。<br />
「でもローバンはいなかった。すぐに取って返して俺を――岬と勘違いして締め上げることにしたんだな。ジェニファーにリックの残したメモを見せて襲ったのも、バレてると思って口封じしようとしたわけか」<br />
　そこまではわかるとして、何だったんだ、さっきの岬の言ったことは&hellip;。<br />
「ソリマチ・サン」<br />
　まだへたったままの俺の前にジェニファーが歩み寄った。迎えに来てくれたのか。<br />
「もう安心よ。警察がさっきやっと着いて、クライブさんは引き渡したわ。コンラッドが上でつかまえてくれたの。なんだかパニック起こして３階に駆け戻ってきたんですって」<br />
　岬が２人いたからってパニック起こすなよ。甘い甘い。<br />
「警察ね。まあギリギリでも来てくれて助かったよ」<br />
　大きなタオルを俺に掛けてくれて、ジェニファーは笑顔を見せた。リックが無事だったとわかって、彼女の笑顔も元に戻ったってことだな。<br />
「ひどい目に遭ったわね。でも、落ちたのが最後の踊り場でよかったわ。ほら、私の背くらいの高さだから」<br />
　なんと最初に滑り落ちた時に俺はほとんど１階近くまで落ちてたんだ。これならなるほどタンコブくらいですみそうだ。<br />
「さっき誰かと一緒にいたでしょ。ドクターだった？　それともこちらの&hellip;」<br />
「ひでえかっこだな、一樹。おぶってやろうか？」<br />
　ジェニファーが振り返ったそこに、俺がまったくまったく予想していなかった顔があった。<br />
「光！　どっ、どーして？」<br />
　ワールドカップ以来まったく会っていないこいつが、なんでよりによってこんな所に現われるんだ。<br />
「北極に永住したんじゃないのかよ！」<br />
「おまえに言われたかねえな」<br />
　俺達の日本語の会話を、解らないながらも笑顔で聞いていたジェニファーが、ここで話に加わった。<br />
「リックを助けてくれたのは、あなたの兄弟だったのよ、ソリマチ・サン。その漁船に乗ってたんですって」<br />
「そんな馬鹿な」<br />
　俺は完全にヤケクソになっていた。]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
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    <pubDate>Sat, 24 Apr 2021 09:03:12 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>Ⅴ章　－　１</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<br />
<br />
<br />
　サッカーの１点はどんな形で入っても１点だ。<br />
テクニックを駆使したシュートでも、イレギュラー<br />
で転がっただけのオウンゴールも、スコアの上では<br />
同じ１点でしかない。だから、１点が入るごとにそ<br />
の本当の価値を知るのはそれを決めた本人、そして<br />
決められた本人だけなのだ。<br />
　　　&nbsp; &nbsp; &nbsp; &nbsp; 『インタビュー』 ジョゼ・ガウス・Jr<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「おい、何をこそこそやってるんだ」<br />
　敵意をむき出しにした声が俺の背に掛けられた。<br />
　同時に両肩をがっしりとつかまれ、身動きができなくなる。<br />
「コ、コンラッド」<br />
「誰と連絡を取ってるんだ、え？」<br />
「いや、だからさっきの11番と&hellip;。岬だよ」<br />
「ミサキだ？　ふん、もうごまかしは効かんからな。何が11番だ。最初から怪しいと思ってたんだ。11番ってのはおまえ自身だろうが。ソリマチってのは偽名だな」<br />
　な、なんてことを。こんな誤解はさすがに俺も初めてだ。<br />
「本部に問い合わせて確認したんだ。先月の市が立つ日に合わせて二人の日本人が村の宿に泊まったってことがわかった。宿帳に名前があったそうだ――Ｋ・ソリマチってな」<br />
「はぁ？　何、それ。俺、知らないってば」<br />
　コンラッドはまるで耳を貸す気がなさそうだった。<br />
「同僚にワールドカップのビデオを改めてチェックしてもらって、その時村に来た一人が間違いなく11番だったって確証も得た。白々しくここらへ来たのは初めてだなんて、おまえこれまでにもローバンと接触していたんじゃないか！」<br />
「えっ、そうだったの？」<br />
　岬ならやりかねない、と俺はこの緊迫した中で思ってしまった。でも――。<br />
「ソリマチってほんとに名乗ってたわけ？　それに、本部とか同僚ってそれ何？　コンラッドって画家でしょ？」<br />
「うるさい、そんなことはどうでもいいんだ。ローバンに何をしようとしてる。国家機密を売り飛ばす気か何かだろうが！」<br />
「いや、そんなおいしいことは――」<br />
　普段ならやってるかもしれないけど。<br />
　コンラッドはノートパソコンの画面を睨んだ。さっきみんなの前で使った時は英語で表示していたが、今は当然日本語のままだ。彼には読めない。<br />
　そうだ、岬に証言してもらうしかない。誤解を解くためには。<br />
　だが、キーボードに手を伸ばそうとした瞬間に、体ごとぐいと後ろに引っ張られてしまった。<br />
「動くな。ダネルの件もおまえが関わっている可能性大だ。警察に引き渡してやる」<br />
「そ、そんなぁ。ウィンスロー襲撃の次はダネル殺し？　俺、そんなにヒマじゃないって」<br />
　ラインが繋がっていてもキーボードに触れなければ岬には伝えることができない。このままここで犯人にされているわけにはいかなかった。<br />
「あっ、こら」<br />
　俺は椅子ごとコンラッドに体当たりして手を振りほどくと、その勢いで廊下に飛び出した。選択肢は一つしかなく、廊下の突き当たりのドアに走る。<br />
　わかってる。ここは恐怖の非常階段だ。でも俺は思い切って扉の外に走り出た。三度目の正直。はるか下で轟く海鳴りを足元に実感しながらも、とにかく必死に駆け下りる。<br />
　と、そこで俺は足を止めた。コンラッドが追ってこないことに気づいたのだ。雨を避けながら上を見る。非常口のドアを激しく叩く音と、その向こうで響くコンラッドの叫びが微かに聞こえている、ドアに鍵がかけられた&hellip;？<br />
「安心しな。奴はもう来やしない」<br />
　ぞっとした。その金属製の扉の前に男が一人立っていたのだ。フードを深くかぶったジャケット姿。それは、ジェニファーを襲った奴に間違いなかった。<br />
「あ、あんた、誰&hellip;？」<br />
　沈黙が流れる。灯台の光が音もなく通過し、俺たちを一瞬だけ照らし出した。<br />
　それが合図かのように男が一歩を踏み出す。<br />
「ローバンに会いに来たんだろう。よくも出し抜きやがって。ローバンをどこにやった！　行ってみれば屋敷は空、ボートで戻ろうとしたらリックの野郎は途中で海に飛び込むし、俺は岸までなんとか着くだけで死ぬ思いをしたんだ」<br />
　俺の耳に馴染んだアメリカ東部の発音だった。しかし、この場でなごんではいられない。<br />
「あ、ああ。だからリックは海に逃げたのか。あんたに殺される前に――あのダネルみたいに」<br />
「ダネルは裏切りやがった。馬鹿な奴だ。ローバンが握っている値打ち物の話を聞かせたら、金か美術品だなんて思い込んで、リックと示し合わせて横取りしようとしたんだ。ローバンの価値はそんなケチなもんじゃないってのにな。そうだろ、ミサキ」<br />
　あああ、またここでも人違いだ。しかもこの男の場合は究極らしい。岬くんを、その正体ごと知ってるみたい。<br />
「いざとなりゃ、あんたを殺してでもローバンをいただいて来いって言われてるんでね。覚えてるかどうか知らんが、去年のテロ事件の現場写真が合成だってあんたがリークしたせいで、うちに転がり込むはずだった支援事業の大口利権が消えたんだ。政府中枢にまで影響があったんだぞ。ここにノコノコ現われたのが運の尽きだってことさ」<br />
　また一歩こちらに降りてくる。俺は後ろ向きのまま一段後ずさった。足元がいよいよ危ない。<br />
「も、もしかしてクライブ&hellip;さん？　あのさ、俺は岬じゃなくただの一般市民。顔が似てても中身はまともだから」<br />
　クライブは黙ったままさらに階段を下り始める。目には、本気の殺意があった。<br />
　ずるっ、と手が滑り、濡れた手すりに夢中でしがみつく。<br />
　クライブが飛び掛って来たのは、その瞬間だった。<br />
　足が浮いた、と思った時には、もう上下がわからなくなっていた。階段に激しく体をぶつけながら滑り落ち、かろうじて止まる。が、安心する間もなく目の前にブーツの黒い靴底がぬっと突きつけられ、俺はパニックになった。<br />
　クライブは、俺をここから落とそうとしている！<br />
　不自然な体勢で濡れた鉄板の上にいる俺は、抵抗することもできずにずるずると押されていく。踊り場の角の、ちょうど手すりの間隔の開いた所から俺は押し出されようとしていた。<br />
　もう後がない。――渦巻く風に、体半分がふわっとあおられた。<br />
「や、やめろぉ！」<br />
　叫んだ時には俺の体は空中にあった。落ちる、という感覚が全身を凍らせる。が、次の瞬間、俺は地面に叩きつけられた。<br />
　反動で頭をしこたま打ち付ける。目の前がちかっと光った気がした。そう、まさに火花である。<br />
「あ、う&hellip;」<br />
　体が動かない。その前に思考がもっと動かない。<br />
　すぐ上に、非常階段のステップのその裏側が見えていた。<br />
　俺は、海には落ちなかったのだ。ここは崖より上、灯台の建つ地上だった。<br />
「ごめんね、痛かった？」<br />
　声がどこかから聞こえた。<br />
「て言うより、怖い目に遭わせちゃって」<br />
「みさき&hellip;？」<br />
　覗きこんできた顔が俺の視界を塞ぐ。誰だ、これ。<br />
　頭はそう思いつつ、口はその名を呼んでいた。<br />
<br />
]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
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    <pubDate>Tue, 20 Apr 2021 14:16:42 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>Ⅳ章　ー　５</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<br />
「&hellip;&hellip;！」<br />
　弾かれたようにジェニファーが飛び出した。吹き抜けに落ちそうな勢いで下を覗く。コンラッドは３階から叫んでいるようだ。<br />
「安心しろ、リックは生きてる。かなり参ってるらしいが」<br />
　突然の大ニュースだった。真っ先に駆け下りて行くジェニファーの後を男どもがあわてて続く。それを３階で待ちながらコンラッドが声を張り上げた。<br />
「沖に流されてるのを、通りかかった漁船が見つけてくれたんだ。シリー諸島の漁船だ」<br />
　シリー諸島とはここコンウォールの先端からわずかに沖に位置する諸島だ。こちらからも声をかける。<br />
「じゃあ、あのボートに乗ってたほうがリックだったってわけか。乗り手を失ったボートだけが岸に打ち寄せられて」<br />
「まさに入れ替わっていたことになるな、ダネルと」<br />
　螺旋階段部分を降り切って、ジェニファーは物も言わずにコンラッドの首にしがみついた。<br />
「ああ、よかったな、ジェニファー。どうやらもうすぐ着くらしいから待っててやろうじゃないか」<br />
　その背中をぽんぽんと優しく叩いてから、コンラッドはジェニファーにうなづいて階下を指した。ジェニファーは管理棟の階段に駆けて行き、姿を消す。ほんと、その後ろ姿に嬉しさがにじみ出ていたといったら。<br />
　リックを救助した漁船はとりあえずこの灯台に向かっているらしい。病院は遠いがここなら医者が二人もいる。<br />
「ドクター・ミスギ、リックが到着したら診察をよろしく。私は臨床系ではないので危なっかしい」<br />
「ええ、いいですよ。ただ私も溺れた患者を診た経験はないので、心許ないですが」<br />
　そりゃそうだ。サッカーのフィールドで溺れた奴はまずいないはずだからな。<br />
　俺は列のしんがりにいたが、そこでふと思い出したことがあった。そう、岬のことだ。<br />
　俺は一人で自分の部屋に戻った。パソコンはまだそのままになっている。さっきも使った専用の通信ソフトを起動した。<br />
『おい、おまえは今どこにいるんだ』<br />
　岬はラインの向こう側に待っていた。<br />
『やっと気づいたんだ。そう、君の目の前だよ』<br />
『ローバン氏は一緒なのか』<br />
『ううん、彼は避難できたって。この嵐だもの』<br />
『おまえはいいのか』<br />
『ボクは大丈夫』<br />
　問い詰めてやる、と意気込むほどこいつは遠くなる気がする。いや、今度こそはぐらかされてたまるもんか。<br />
『ウィンスローを使って俺をうまくだましてくれたよな。最初からそういう計画だったのか』<br />
『君をだますのが目的だったわけじゃないよ、一応。ボクがここに来るのに色々障害物があって、それをなんとかするために君を巻き込むしかなかったんだ。ほら、他人をだますならまず身内からって言うじゃない？』<br />
　くそ、俺はいっそ他人でいたかったよ。<br />
『ローバン氏はそれだけの人物ってわけだな。おまえが動き、この灯台の常連がそれぞれに動き、互いに牽制し監視し警戒してる。で、おまえは彼にどういう用事があるってわけ？』<br />
『ストレートな質問だなあ。10年前の国際条約会議、あの時のウラ話を明かしてもらうんだ、って言ったでしょ』<br />
『言ったのは俺だ！　おまえもまったく同じってわけあるか』<br />
『それが同じだったんだよね、使い道が違うだけで。君は君のお父さんの記事の矛盾点を解決したい。ボクはボクの調査に彼の証言が必要。それだけさ』<br />
　岬の「それだけ」はノーコメントと同じってことを俺はよーく知っていた。アプローチを変える。<br />
『ローバンは随分人を避けた生活をしていたらしいけどなぜそこまでする必要があったんだ。現役時代にはこれといった華々しい実績もないのに』<br />
『そりゃ静かな生活をしたかったからじゃないの？　国連って原則としては中立でしょ。中立なんて立場を保つためにはそりゃもう無理なことがあれこれあるわけだよ。見ちゃいけないものを見て、聞いちゃいけないことを聞いて、そしてそれを全部なかったことにして初めて中立でいられるんだ。そこから解放された人が今度こそ自由でいたいって思うのは当然だと思うな。自分の意見は自分の意思で言いたい、ってね』<br />
『おい、ってことは、ローバンは過去のあれこれ隠された事実を発表しようとしてるのか？　いくら引退しててもそれは危険じゃないか』<br />
『もちろん危険だろうね。だからボクがそれを引き受けようって話なんだ。その危険をね』<br />
　俺は唖然とした。<br />
　岬とローバン氏の接点はそこにあったのだ。<br />
『じゃあ、彼の持つ情報をお前が世間に出す役をするのか？　おまえのその「研究」の中で&hellip;』<br />
『そうだなあ。本の出版になるかもしれないし、マスメディアを利用するかもしれないし、単にボクのデータベースに入るだけのものもあるかもしれないけど、簡単に言えばそうなるね』<br />
　なんてこった、それなら親父の記事の比じゃないぞ。まさに激震だ。岬本人に返ってくる揺り戻しも半端じゃないだろう。<br />
『おまえ、大丈夫なのか、そこまでして』<br />
『だから時期を待ってたんだ。君のお父さんが鍵だったから』<br />
　な、何だって？<br />
　俺は岬とのやりとりに必死になっていた。<br />
　そう、背後からの人影に気づくのがその分だけ遅れたのだ。<br />
<br />
<span style="color: #455b61; font-family: Verdana, 'ヒラギノ角ゴ Pro W3', 'ＭＳ ゴシック', Osaka‐等幅; font-size: 12px;"><br />
<br />
<br />
【第Ⅳ章　おわり】</span><br />
<br />
]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
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    <pubDate>Sun, 28 Feb 2021 12:01:18 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>Ⅳ章　ー　４</title>
    <description>
    <![CDATA[「あ、届きそうです。ちょうどこのドアの前だし」<br />
　大柄なウィンスローが風雨の中へ腕をいっぱいに伸ばし、そこに引っかかっていたものを回収した。<br />
「服だ。服の一部が破れたかしたものですね」<br />
「見せて。それ、見覚えが&hellip;」<br />
　ジェニファーは一目見ただけで断言した。<br />
「リックの制服に間違いないわ。胸ポケットのフリップ、取れたの最近縫ってあげたばかりだったの」<br />
「てことは――下で見つかったあの死体はここで殺されてから落とされたもの？」<br />
　俺たちは無言で互いの顔を見合わせた。聞こえるのは重く低くうなる風の音。そして闇の下、足元を崩さんばかりに押し寄せる海の重圧感。<br />
「事故じゃなく、殺人&hellip;？」<br />
　ジェニファーの声はわずかに震えていた。彼女の恋人は明らかに事件に関わっており、被害者か加害者かそれすらもわからないまま行方が知れないということだ。<br />
「被害者はこのバルコニーでしばらく放置されていますね。この一ヵ所だけ血だまりになった跡がある。雨でかなり消えかけていますが、少なくとも自分で動けているなら血の跡はもっと広範囲になるはずです。既に無抵抗な状態、だったということですね。つまり意識がなかったかもしくは死んでいるか&hellip;」<br />
　三杉はウィンスローを振り返った。<br />
「灯台の真下の海で見つかったんでしたよね。第一発見者は誰でしたか？」<br />
「ああ、それは――」<br />
「僕です」<br />
　俺達の背後で、いきなり別の声が割り込む。<br />
「エディ！」<br />
　俺たちが話に集中していた間に上がってきたのか、管理人のエディ・マ－カスが灯室に姿を見せていた。<br />
「ただし、岩場でじゃなくここだったんです。最初に発見したのは」<br />
　エディはガラスの向こうのバルコニーに目をやった。<br />
「嵐になりそうだというので僕は日没前に点検をしておこうと思いました。一人で上がってくると、ガラス越しに誰かがいるのが見えたんです。その手すりの前にぐったりと倒れていて顔も服装もしっかり確認できました。そして既に死んでいることも&hellip;。ダネルだったんです」<br />
「ダネルって、まさか！　ボートから落ちたんじゃなく、ここから落ちたって？」<br />
　俺が詰め寄ると、エディは目をそらして答えた。<br />
「彼に間違いないです。直接の知り合いではないですが、顔はわかります。リックとは同じ村出身の幼なじみなこともあってよく会いにきてましたから」<br />
「つまり死体を落としたのは、あなただった&hellip;？」<br />
　三杉の言葉に誰もがぎょっとする。エディは苦しい顔でうなづいた。<br />
「リックの幼なじみがリックの服を着て死んでいる――。私はリックが犯人なのでは&hellip;と動転して、とっさに手を出してしまいました。証拠を消すつもりで」<br />
「でも死体は海ではなく岩場に落ちてしまった。――するとあなたは死体を回収すると見せかけて逆に流してしまおうとしたんですね。私達を敢えて目撃者にした上で」<br />
　ウィンスローがまっすぐ見つめながら問いかけ、エディはここで、がっくりとうなだれた。<br />
「本当に、馬鹿なことをしてしまったものです。リックが犯人ともきまったわけでもなかったのに」<br />
「もしや動機にも心当たりがおありだったからとか&hellip;？」<br />
　三杉の言葉に、エディはのろのろと顔を上げる。<br />
「あの屋敷です。彼ら二人はずっとあの屋敷に興味を持っていましたから」<br />
「あそこが？」<br />
　俺が振り返ったので、ウィンスローは驚いた顔のまま俺と目を合わせた。<br />
「あんな家、不動産的にはほとんど価値はありませんよ。あの断層が道を塞いで以来、そもそも住める環境じゃないし、だからこそ祖父一家は手離したんです。あのローバン氏も人目を避ける以外の利点は認めてないくらいですから」<br />
「家ではなく、そのローバン氏狙いだとしたら」<br />
　エディが闇の向こう、屋敷の方向に視線を投げた。<br />
「ダネルがリックに会いに来ていた時、一度通りすがりに耳に入ったんです。直接行って奪おうとか何とかいう会話でした。いっそ先回りしよう&hellip;とも。彼らはローバン氏自身の財産を奪おうとしていたんじゃないでしょうか」<br />
「じゃあ、彼らが警戒していた『訪問者』って――」<br />
『彼らの計画を阻止しようとする存在、さらに犯行後に足がつく危険性を持つ存在、だったのでは」<br />
　エディは、リックの上司として止められなかったことを悔やんでいるようだった。結果、人ひとりが命を落とすことになったのだから当然だが。<br />
「財産狙いか。ダネルは使用人でありながら何か勘違いしていたようだな。価値のある美術品や貴金属でも持っているとでも思ったのかな」<br />
「それとも間違った情報を吹き込まれてたかだ」<br />
　それは俺の憶測に過ぎなかったのだが。<br />
「なら、リックがやっぱりその人を&hellip;？　仲間割れか何かで」<br />
　ジェニファーは蒼白になっていた。<br />
「姿を消したのは２人だ。リックとクライブさん。まだ可能性としては半々だと考えたほうがいい」<br />
　ウィンスローが静かにそう言った時。<br />
「おーい、みんな、そっちにいるのか！」<br />
　吹き抜けに反響するどら声が俺達の耳に届いた。<br />
「あ、コンラッド」<br />
　灯室から階段に出るドアを開いてエディが下に呼び掛けた。<br />
「何やってんだ、そんな所に集まって。ジェニファーもそこにいるのか？　今連絡が入って――リックが見つかったんだ！」]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
    <link>http://waniwani.blog.shinobi.jp/%E5%B2%AC%E3%81%AE%E7%81%AF%E5%8F%B0%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6/%E2%85%A3%E7%AB%A0%E3%80%80%E3%83%BC%E3%80%80%EF%BC%94</link>
    <pubDate>Thu, 31 Dec 2020 16:12:13 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>Ⅳ章　ー　３</title>
    <description>
    <![CDATA[「君は高い所って全然平気みたいだねー」<br />
　俺はしんがりからジェニファーに声をかけた。<br />
「そりゃあバードウォッチャーですもの。海鳥の営巣の調査なんて崖登りの連続よ。アイルランドではもっとすごい崖も調べたことがあるわ」<br />
「その点、サッカー選手の職場は平坦ですからね」<br />
　先を行く三杉がくすくすと笑った。ジェニファーが目を丸くする。<br />
「あの&hellip;よく見るとやっぱり似てらっしゃらないところもあるんですね、ご兄弟でも。ドクターはソリマチ・サンと別の意味でサッカー選手には見えないわ」<br />
「この男の話は半分くらいに聞いておかないと大変なことになりますよ」<br />
　三杉は俺のほうをちらりと振り返った。螺旋階段なので嫌でも互いの顔が見える。<br />
「えっ、でも半分って、兄弟なのも&hellip;？」<br />
「ええ、実の兄弟ではないですから。しいて言うなら彼の息子の養父役です。僕の子供たちと一緒に暮らしてますから」<br />
「あら、結婚なさってたの、ソリマチ・サン。お子さんまで」<br />
「それも半分ってことで」<br />
　などと軽口を交わしているうちに、最上階、つまり灯台の心臓部である灯楼に着いた。<br />
「うわ、思ったより小さいんだ」<br />
　日本風に言うと四畳半に相当するくらいの円形の部屋だ。<br />
　その中央に俺の背くらいの高さの灯器が据えられていていて、黙々とひたすら黙々と回り続けている。たぶん中心に強力な光源があるのだろう。それを守るように、ギザギザと凹凸加工されたガラスの覆いがされていて、実は回転しているのはこちらだった。<br />
「これは&hellip;」<br />
　ウィンスローがその覆い――フレネルレンズといって光源を何百倍の明るさに増幅させる反射装置だそうだ――の前に顔を寄せてじっくりと確認する。<br />
「血液じゃないですか？　かなりの量のようだ。これがレンズに付着したせいで灯台の閃光がいつもと違って見えたんですよ。灯台ごとに定められた周期や色なんかが識別信号になっていますからね」<br />
「それで船から問い合わせがあったってわけか。でもここで何があったんだ？　いわゆる争った跡、ってことかな」<br />
　レンズはぐるぐる回っている。血の跡を辿るためには全方向を調べなければならなかった。<br />
「これだ」<br />
　それは時間が経って変色した痕跡だった。かすれた血のしみが帯のように床に続いている。<br />
「引きずられていますね」<br />
　膝をついて三杉が覗き込んだ。<br />
「もう自分では動けなかったらしい」<br />
「ね、見て。外の手すりの所」<br />
　灯室の窓部分に立って外を見渡していたジェニファーが声を上げる。<br />
「ほらそこ。何か見えない？布か何か」<br />
「出て確認してみましょう。ええとそちらにドアが&hellip;」<br />
　ウィンスローがそう言いながらくぐり戸のようなドアを開いた。<br />
　後で知ったが、灯台の命ともいえるこの外部ガラスは汚れやキズがないよう保つのが管理上の鉄則の一つ。だから清掃用にこのバルコニー部分があるのだという。こんな所の清掃って、ビルの窓掃除以上の恐ろしさだろう、きっと。]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
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    <pubDate>Sun, 27 Sep 2020 11:56:54 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>Ⅳ章　ー　２</title>
    <description>
    <![CDATA[「なんだってあんな真似を。おかげで俺は犯人扱いだったんですからね！」<br />
「それが目的だったんです」<br />
　ちょっと真面目な顔になって、ウィンスローは口を開いた。<br />
「あなたにしばらく動き回ってほしくなかったんです。むしろ閉じ込められているほうがあなたにとって安全かと」<br />
「はぁ？」<br />
　俺は混乱した。リックには警戒される一方で、俺自身のほうも警戒しなければならない、ってのは、一体？<br />
　しかしそこへ三杉が割って入った。<br />
「ウィンスロー教授、ご挨拶が遅れました。お加減はもう大丈夫ですか？」<br />
　握手に応じながらウィンスローも笑顔を見せる。<br />
「おかげさまで。傷を縫わなかったのは、もちろん私の事情を考えてくださったからですね、ドクター」<br />
「いえ、ご自分の身を挺してこの男を守ろうとしてくださったようで、恐縮です。そこまで心配するほどの人間じゃないんですがね。危険と馴れ合って生きてきた男ですから」<br />
　おい。<br />
　俺の苦悩は無視か。優雅に自己紹介しあってんじゃない！　しかも勝手な評価付きで。<br />
「ええ、それはミサキからも聞いていました。でも、リックの身に起きたーーいえ、別の誰かだとしても、ああいうことが起きた以上、危険は予想以上に近くに来ていたというわけです。私はすぐにでも手を打たねばなりませんでした」<br />
「そうでしたか」<br />
　三杉はうなづいて俺に向き直った。まるで二人の面接官に向かっているみたいだ。<br />
「いいかい、一樹。君には心当たりのない歓迎ぶりだ。警戒されたり守られたりーーここまで来ると君にもわかるだろう」<br />
「う&hellip;やっぱり、岬くん」<br />
　居場所まで俺に偽装して、あいつ何をやってるんだ。俺は初めて来た場所でこんな目に遭ってるってのに。<br />
　さっきのやりとりを思い出す。例によってあいつの居場所はわからない。ローバンとの会見も果たして実現するのかどうか。<br />
　俺は疑心暗鬼になりそうだった。<br />
　数が合わない。その原因は俺じゃないのに俺しかいない。<br />
「せめて嵐だけでもおさまってくれたらなあ&hellip;」<br />
「乗り手の消えた船、宿泊客ではない崖下の遺体」<br />
　窓から外を見ながら三杉がつぶやいた。<br />
「そして逆に行方が知れない２人ーー」<br />
「せめてリックだけでも無事だといいんだけど。ほら、俺を警戒した理由とかさ」<br />
　立ったままのジェニファーにそう声をかける。隣のウィンスローが先に口を開いた。<br />
「さっきエディが来てましたよね、灯台に異変があると。どうも気になるので、せっかく『目が覚めた』わけだし上がってみようと思うんですが」<br />
「そうね、リックのこともあるし。何か手がかりでも」<br />
　三杉が二人に向き合った。<br />
「じゃ、医者の同行を条件に許可しましょう」<br />
「裏切り者め。そりゃ俺だって気になるってば」<br />
　結局、全員で行くことになってしまった。つまり、一人にするよりも一緒が安心ということなのだ。<br />
　俺たちは部屋を出て、廊下から灯台の吹き抜けの内側を狭い螺旋階段で上っていくことになった。３階の居住部分からさらに上へ３階分ーー床はないがおよそ１階ごとに窓がついているのが目安らしいーー上がることになる。結構な高さだ。吹き抜けのほうはなるべく見ないようにしないと。]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
    <link>http://waniwani.blog.shinobi.jp/%E5%B2%AC%E3%81%AE%E7%81%AF%E5%8F%B0%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6/20200813</link>
    <pubDate>Wed, 02 Sep 2020 13:16:43 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>Ⅳ章　－　１</title>
    <description>
    <![CDATA[世の中は進歩していく。用具もウェアも、計測機器も。<br />
十年と言わずもはや日々改良が進んで、選手はテクノロジー<br />
と経済の発展を身にまとって競技に臨む。しかしただ一つ、ど<br />
んな進歩も及ばない場所がそこにある。そう、鳥人と呼ばれる<br />
僕達は、宙に飛び出した瞬間、己の体と、風との、その一騎討<br />
ちとなるのだ。
<div style="text-align: center;">『鳥たちは還らない』　ソール・ヨーンセン</div>
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　◆<br />
<br />
<br />
「海がこれだけ大荒れなら、自分たちに危険がないようにするのが精一杯だったんじゃないのかい？　一樹、君も含めてその遺体をしっかり顔まで確認する余裕があったかだよ。体格、髪の色、それに服装が決め手だったんだろうが、その状況ではどこまで正確に判断できたか怪しいね。思い込みが先に立った可能性は否定できない」<br />
「うーん&hellip;」<br />
　俺は確かにリックという人物に面識はない。俺が見たのはエディと同じジャケット――野鳥観察センター職員の制服だ――を着た姿だ。波にもまれていたから髪の色も体型もはっきりとは覚えていない。男、と思っていたが、それだって断言できないくらいだ。<br />
「ジェニファー」<br />
　俺は振り返った。<br />
　俺たちは死体にはほとんど近づけなかった。ジェニファーもそうだ。ウィンスローが引き離したから。だが彼女は、彼女だけはわかったのだ。最愛の恋人だったのか、他人だったのか。<br />
「リックじゃなかった」<br />
　ジェニファーはかすれた声でつぶやいた。<br />
「見覚えのない、知らない人だったわ。リックの服を着た、別人だったのよ」<br />
「じゃあなぜあの時そう言わなかったんだ？　君はあんなにショックを受けてたし、俺たちはてっきり&hellip;」<br />
「ショックだったわ。頭の中が混乱して、もうどうしていいかわからなかった。死体は彼じゃない。だからこそ、彼に何か良くないことが起きたってわかったの」<br />
「まさか君、リックのほうが加害者だと思ったとか？」<br />
　俺の言葉にジェニファーは表情をこわばらせた。それを横目で見てから三杉はさっきのメモを示す。<br />
「この『訪問者』って、誰のことだと思う？」<br />
「えーと、まさか俺？」<br />
　注意しろって名指しされる覚えはないけどさ。<br />
「そう言えば&hellip;」<br />
　ジェニファーが口を開いた。<br />
「ソリマチ・サンがここにやってくるところを、私たちちょうど見てたんだけど。私の部屋からまっすぐ崖道が見えるから。リックはその時、何か急にそわそわし始めたの。そして一人であわてたように出て行って&hellip;」<br />
「そしてそれきりになった、と――」<br />
　見つかったのは服だけ。誰ともわからない死体が着て。崖の下で波に揺れていた姿が一瞬蘇って、俺は急いでそれを振り払った。<br />
「その時のことがあったから君はこのメモが自分に当てられたものかもしれないと思ったわけだ」<br />
「ええ&hellip;」<br />
　ジェニファーは不安げにうなづいた。<br />
「『訪問者』か。それにしてもリックは君を見て何に驚いたのかな。君がここに来ることを前もって知っていたのかどうかだが」<br />
「エディには知らせてあったって言ってたよ。まあ、管理人だからだけど」<br />
「だとしても、着いた早々の反応としては奇妙だな。この人気ぶりはどうも君じゃないほうの誰かを連想するんだが&hellip;」<br />
　ほう、って何！<br />
「じゃあ、また俺を見てあいつと勘違いしたクチ？」<br />
　確かにワールドカップの件ではずいぶんいじめられたけど。<br />
「心当たりはあるんだろう？　二人してここで待ち合わせたということは」<br />
「だけどさ、ジェニファーまで襲われたんだぜ？　あいつはロンドンで足止め食ってるし、誰がやったのか知らないけどずいぶん見当違いだってば」<br />
「ロンドンで？」<br />
「そう」<br />
　俺は答えたと同時にはっとした。最初に引っかかった違和感が俄然リアルになる。<br />
　視線を合わせてきた三杉も同じことを考えたようだ。<br />
「&hellip;いや、違う。あいつが素直に自分の居場所を教えてくるなんてことは――」<br />
「非常に珍しい。というか、ありえない」<br />
「チクショー！　俺ってお人好しっ！」<br />
　くるっとパソコンに飛び掛ってさっき身分証明を頼んだ時のログを呼び出す。俺は完全にあいつの言葉を信じてた。空港でまだ足止めを食ったままっていうなら&hellip;。<br />
「やっぱりだ。アクセスポイントをチェックすればすぐにわかったのに。これってロンドンのじゃなく、ここの地元のアドレスになってる&hellip;」<br />
「信じ込ませていたわけだね」<br />
「なんでだよ～、もう！」<br />
　チャット状態で「話」をしたのはついさっきだ。岬はどういうつもりだ！<br />
　一緒にノートパソコンを覗いていた三杉がふと動く。そして俺たちの背後、ドアに向かっていきなり呼びかけた。<br />
「ウィンスロー教授、あなたはご存知なのでは？」<br />
「えっ！？」<br />
　俺は固まった。<br />
「おやおや」<br />
　聞き覚えのある声が、開いたドアから聞こえてきた。そこに立っていたのはなんと、意識不明だったはずのウィンスローだった。額の大きなバンデージが唯一の名残りだ。<br />
「やっぱり同業者をだますのは無理でしたか。診察中は何もおっしゃらなかったので、うまくいったといい気になっていたんですがね」<br />
「淳、おまえ？」<br />
　驚きもせずに平然としている顔を俺は見つめる。<br />
「じゃあおまえは最初から知ってたわけ、教授が本当は目を覚ましてるって」<br />
「目を覚ますというか、私は初めから意識があったんですよ、ソリマチ・サン。あのケガは偽装です。出血は手持ちのサンプルで。重いのに運んでくださって申し訳なかったです」<br />
「謝るのはそこじゃないでしょっ！」<br />
　一気に力が抜けた。ウィンスローとそして三杉を交互に睨むしかない。]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
    <link>http://waniwani.blog.shinobi.jp/%E5%B2%AC%E3%81%AE%E7%81%AF%E5%8F%B0%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6/%E2%85%B3%E7%AB%A0%E3%80%80%EF%BC%8D%E3%80%80%EF%BC%91</link>
    <pubDate>Mon, 31 Aug 2009 08:26:43 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">waniwani.blog.shinobi.jp://entry/91</guid>
  </item>
    <item>
    <title>Ⅲ章　－　４</title>
    <description>
    <![CDATA[「おーい、なんだ、さっきのは！」<br />
　振り向くと、コンラッドが階段のほうから姿を見せ、駆け寄ってきた。廊下にいる俺たちに気づき、ジェニファーの様子に驚いている。<br />
「襲われたのか&hellip;？」<br />
　声を低めて呼びかけ、ジェニファー本人が弱々しいながらもうなづいたのでほっとしたようだ。<br />
「悲鳴が聞こえたからあせったぞ。エディは？」<br />
「犯人が非常階段に逃げたから追いかけてったよ。俺たちには犯人の顔は見えなかった」<br />
「くそ、またか。じゃあ俺は下から調べてみる」<br />
　またどたどたと階段に駆け戻っていくコンラッドだった。それもいいけど、これで俺への疑いを解いてくれって言いたかったのに。なんて気の短い男なんだか。<br />
「立てるかな？　とりあえず部屋に戻ろう」<br />
　三杉が手を貸してジェニファーをゆっくりと部屋に連れて行く。彼女の部屋はウィンスローの部屋の隣だった。ジェニファーはソファーに掛けて大きく息を吐いた。<br />
「どうもありがとう&hellip;、助かったわ」<br />
「何があったわけ、一体」<br />
　俺の質問に、ジェニファーは小さく首をかしげた。<br />
「私はウィンスローの部屋にいたの。そしたら、ノックの音がして、この紙が&hellip;、ドアの下から差し込まれたのよ」<br />
　握っていた手を広げて、小さな紙切れを俺たちに見せる。<br />
　くしゃくしゃなのを広げてみると――。<br />
『訪問者に注意しろ』<br />
　という手書きの文字が読み取れた。<br />
「私、すぐに廊下に出たんだけど、そこでいきなり後ろから抱えられて&hellip;&hellip;」<br />
「誰だったか、わかる？」<br />
　ジェニファーは首を振る。<br />
「後ろ向きだったから顔も見えなかったし、口も利かなかったから&hellip;」<br />
「そうかぁ」<br />
「でも変だね」<br />
　俺がつぶやいた横から三杉が口をはさんできた。<br />
「そんなメモを見ただけで君もいきなり出て行くなんて、危ないとか思わなかったのかい？」<br />
　ジェニファーの顔が強張った。三杉はさらにたたみかける。<br />
「君は僕たちに隠していることがあるようだ」<br />
「そ、そうなの？」<br />
　俺のほうがおろおろしてしまったかもしれない。三杉とジェニファーに交互に目をやる。ジェニファーは身じろぎもせずにただじっと三杉を見つめていたが、最後に両手で顔を覆って大きな息をついた。<br />
「ごめんなさい。私、その字を見てすぐにわかったのよ。――リックのだって」<br />
「なるほど」<br />
　三杉はうなづいた。<br />
「君はリックだと思ったわけだ、ドアの外にいるのが」<br />
「ちょっと待てよ、リックなら&hellip;&hellip;」<br />
　俺だけが事情がわからない。声を上げかけたのを三杉が目で制した。そしてしばらくジェニファーを見つめてから口を開く。<br />
「君はリックが死んでなどいないと――見つかった死体が彼ではないと気づいていたんだね、やっぱり」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
　ジェニファーがハッと目を見開いた。表情がさらに固くなる。<br />
「やっぱりって、何だよぉ」<br />
　俺が小声で抗議すると三杉はちらっとこちらに目を向けた。<br />
「馬鹿だな、女心だよ」<br />
　あのね、女心がわかるなら、俺はこんな人生送ってないって。<br />
<br />
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【第Ⅲ章　おわり】]]>
    </description>
    <category>岬の灯台殺人事件</category>
    <link>http://waniwani.blog.shinobi.jp/%E5%B2%AC%E3%81%AE%E7%81%AF%E5%8F%B0%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6/%E2%85%B2%E7%AB%A0%E3%80%80%EF%BC%8D%E3%80%80%EF%BC%94</link>
    <pubDate>Fri, 10 Jul 2009 13:55:10 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">waniwani.blog.shinobi.jp://entry/90</guid>
  </item>
    <item>
    <title>Ⅲ章　－　３</title>
    <description>
    <![CDATA[　俺が会おうとしている元国連事務次官ウィリアム・Ｎ・ローバン。そう、向かい側の岬にある屋敷の住人だ。<br />
「華々しい経歴ってわけじゃないんだ。地味にキャリアを重ねて地味な引退生活に入った。――ね、こういうのがまさに岬好みだって思わない？」<br />
「だとしても」<br />
　三杉は慎重だった。岬に対してはもちろん、俺の言葉にも簡単には乗ってこない。<br />
「アクシデントが重なりすぎるね。偶然なのか意図的なのか&hellip;」<br />
「おいおい、やめてくれよ」<br />
　俺は抗議した。それをまさに身をもって実感しつつあっただけに。<br />
「もうこれ以上疑いをかけられるのはごめんだって。死体が増えるのもね」<br />
「そうだね」<br />
　うなづきながら三杉は少し考えるように視線を宙に向けた。<br />
「ここにいる人たちだけど、君とは初対面なんだね？」<br />
「うん、もちろん。中には俺が着く前からいなくなってた人もいるし」<br />
「不思議だね。なのに彼らは君にずいぶん深く関わってしまっている。なぜだろう」<br />
「は？」<br />
　いきなりな指摘に俺はぽかんとした。<br />
「しかも一人一人が何かを隠している」<br />
「おい、淳&hellip;」<br />
　俺が問い返そうとしたその時、ドアをノックする音がした。顔を覗かせたのはエディ・マーカスだった。<br />
「よし、ちゃんといるな」<br />
「何かあったんですか？」<br />
　自分は容疑者ではない三杉が部外者として尋ねた。エディはこいつには丁寧な対応をする。<br />
「いや、さっき無線で連絡が入って。――近くを航行中の定期船からなんですが、灯台の光がいつもと違う、何か異状がある、っていう問い合わせなんです。故障かトラブルか、とにかく上に行って確認するところです」<br />
　それで念のためにここに寄って確かめたわけね、俺が何か怪しい真似をしていないか。この上灯台の故障まで責任を問われちゃたまらないってば。<br />
「灯台の維持管理はどこも自動化されていると聞いていますが」<br />
「その通りです。基本的には地域ごとの管理センターで統括して管理業務を行なっていますから。僕はあくまでバードサンクチュアリの責任者であってそちらの専門家じゃないんです。でもまあ間借りしている以上、緊急時には協力しないといけませんから」<br />
「こういうロケーションですから保守点検も不可欠でしょうね」<br />
　二人で小難しい話に熱中しているけど、問題はそこじゃないはず。<br />
「あ、いけない。コンラッドを待たせているんだった。下で無線についててくれてるので」<br />
　エディは我に返ってドアに手をかけた。と、いきなりその外で大きな物音が響く。向かいでドアが激しく叩きつけられる音、そしてバタバタと暴れるような足音。<br />
「や、やめて――離して&hellip;」<br />
　苦しげにかすれた声はジェニファーだ！　俺たちは廊下に飛び出す。<br />
　廊下の突き当たり、あの非常階段への扉が開いて激しい風雨がその外でうなっていた。そこにちょうど灯台の光が通過して、逆光の中でもみ合う２つの人影が浮かび上がる。<br />
「ジェニファー！」<br />
　背後から羽交い絞めにされた格好でもがいていたジェニファーが、いきなり放り出された。襲った犯人は身を翻して外に飛び出す。俺たちもそこに突進し、扉を手で押さえた。エディがそれをすり抜け、俺もそれに続こうとした。――が、できなかった。<br />
　そう、またも俺を阻んだもの。それは暴風雨にさらされる非常階段のその高さだった。一歩出たその場所でいきなり強風にあおられ、あわてて手すりにしがみつく。その危なっかしい体勢で、俺は必死に目を凝らした。<br />
　階段を駆け下りていくエディ。その先には闇に小さくなっていく後ろ姿が階段の下にかろうじて見えた。再び巡ってきた灯台の光が、そいつの防水ジャケット姿を一瞬だけ照らしたが、顔のほうはとうとう見えずじまいだった。<br />
　まただ、また逃しちまった。<br />
　がっくりしつつ扉の内側に戻ると、ジェニファーは廊下のそこにへたり込んで、三杉に介抱されているところだった。<br />
「首を絞めかけられたようだ。危なかったね」<br />
　ゆっくり深呼吸をさせながら声をかけ、三杉はジェニファーをまず落ち着かせようとしている。まだ放心状態という様子ながら、ジェニファーの顔色も戻ってきたようだ。]]>
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    <category>岬の灯台殺人事件</category>
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    <pubDate>Tue, 07 Jul 2009 14:44:42 GMT</pubDate>
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